■マイノリティの立場から世の中を変える
——バイヤーとだけではなく、隣り合う出展者同士が情報交換する様子は「ててて見本市」らしいなと感じました。商談の場というよりは、思いを同じくする者同士が集まる集会のような印象を受けました。
まつお そこは「ててて」がずっと目指してきたところ。こんな展示会ほかにはないんじゃないかな。そもそも運営の僕たち自身が出展者さんたちとゆっくり話したくて「ててて」を始めたんですから。
吉川 すでに多くの展示会があるなか、単純にビジネスの場を提供するだけなら私たちが見本市を続ける意味はありません。出展者同士、来場者同士が同じ価値観のなかで交流するきっかけをつくってきたつもりです。たとえるなら「共同体」かな。
まつお 「生態系」なんかもいいんじゃない?
——昨年までの「TOLOT/heuristic SHINONOME」(江東区東雲)から「スパイラルホール」(港区南青山)に会場が変わりましたが、来場者数や傾向はいかがでしょうか。
まつお 来場者はかなり増えましたね。バイヤーさんの業種も以前に比べて幅広くなったと思います。利便性が良くなったことが要因だと思いますが、6回目を迎えて「ててて」の思想が少しずつ浸透してきたこともあるのでは、と前向きに考えています(笑)。
吉川 驚いたのは、来場者の滞留時間の長さ。朝から夕方頃までずっと会場におられるバイヤーさんもいて、その密度の濃さが印象的です。
——2日目の昼頃には来場者用のカードホルダーが足りなくなった一幕もありました。
まつお 午後一番の時間帯に来場者が集中したのは想定外でした。青山ならではの「波」なのかもしれない。大きな混乱もなく乗り切れたのは幸いでした。オペレーションについては実践のなかで方法を探っていくしかありません。
吉川 今回はこの会場で100組という開催規模を見極める機会でもありました。出展者の方々は皆、適性なボリュームのビジネスを目指しているのだから、運営の私たちもそうした姿勢で「ててて」をつくっていかなくてはいけない。今回の結果をふまえ、来年は規模を縮小するという選択肢もあります。
まつお この規模と会場で持続できるかどうかだよね。来場者数だけが絶対的な指標じゃないから。
吉川 でも、いつも蓋を開けるまではドキドキですよ。初日に会場を開けるまで「今回は誰も来ないんじゃないか」って不安はあります。
まつお ものづくりの背景に強い関心を持っているバイヤーさんが多く、出展者の皆さんもその点をとても喜んでくれていました。でも、ここまで来るのに5年かかった。6回目にしてようやく理想がかたちになってきたな、という感じ。
——「ててて」をスタートした頃にはどんな苦労がありましたか?
吉川 第1回の出展は20者。出展者も来場者もよく知った仲間ばかりでしたから「価値観の共有」という面については悩まなかった。苦しかったのは規模を拡大した3回目以降かな。
まつお 「EXTRA PREVIEW」との合同開催(第1回〜第3回)から、単独開催に変えたときは「中量生産・手工業」というテーマをどう浸透させるかすごく考えましたよね。
吉川 運営メンバーの会議でも「私たちはどういう人に出展してもらいたいのだろう」と自問してばかり。皆で電話帳をめくりながらという私たちが会ってみたいつくり手を懸命に探していましたね。
——食品や建築など業界ごとに特化した展示会が多いなか、「ててて」には多種多様な業種の出展者が集まります。暮らしのあり方を提示する「ててて」の姿勢に共感して出展を決めたという声も多く聞きました。
吉川 価値観を基準に「ててて」を選んでもらえるのが一番うれしい。ただ、まだ世間の流れを変える存在にはなれていないかな。やっぱりニッチなんでしょうね。まつおさんも「メジャーにはなりたくない」っていつも言ってるよね。
まつお うん。マイノリティであることが誇りだからね。その立場から少しずつ世の中を変えていきたい。
——海外のバイヤーの動向はいかがでしょうか?
まつお 昨年は中国のバイヤーが多かった印象がありますが、今年はそうでもありませんね。国や地域の偏りは感じないかな。僕が普段、仕事でお付き合いしているのが世界35カ国、約200店舗くらい。そのなかには招待状を送っていなくてもどこかで聞きつけて東京まで足を運んでくれる方もいて、同じ価値観で引き寄せられているんだなと感じます。
ただ、「日本製」「日本の伝統技術」という理由だけでは買ってもらえない。それぞれの国や地域の生活様式にすっと入っていける機能性や美的感覚を備えていて、その上で日本の文化を伝えるものが求められている。
——ててて見本市の課題は?
まつお 今、言葉が欲しい。海外で「ててて」の思想をひと言で説明できる言葉が無いんですよね。僕たちはこれまで「中量生産」「手工業」と日本語で言葉をつくってきました。その適切な英訳をずっと探してきたけど、まだ見つかっていなくて。海外で「ててて」の理念や理想を伝えるときに説明的になってしまうのがもどかしいんです。「Handicrafts」「Medium-scale Production」なんかが近いけど、どうもちょっと違うしね。
吉川 今後の目標ですよね。いや、野望かな。
まつお 世界中で、「TE TE TE」ですべて説明できれば最高なんだけどね。
——大治さん、永田さんは「今後は見本市以外にも取り組んでみたい」と話していましたが、多角的な展開についてはいかがでしょうか
吉川 アイデアはたくさんあるので、実現のタイミングを見計らいながら考えたい。外部からのオファーを待つというのは私たちらしくない。見本市のように、自分たちが必要だと思って始めるプロジェクトにこそ意味があるし、「ててて」らしいと思います。
まつお まずは自分たちにとって必然性があることをしたいよね。そして、それが世の中に求められていることだと信じたい。「ててて」も会社組織になったことだし、これまでの経験を活かした展開を考えていきたいね。
まつお たくや
フォーデザイン合同会社 代表社員/ディストリビューター 1970年、東京生まれ。1994年、米国カリフォルニア州University of San Francisco (B.S.)卒。テルモ(株)、(株)情報通信総合研究所、 (株)NTTデータを経て、2010年に手工業品・中量生産品ディストリビューターであるフォーデザイン合同会社を立ち上げ。国際コミュニケーションとグローバル・ビジネスの実践経験を活かしつつ、海外進出で世界展開を目指す手工業品メーカー、作り手の流通・販売戦略に関するお手伝いをしている。
吉川友紀子 よしおかゆきこ
デザインマネージャー 1978年生まれ。神奈川県出身。武蔵野美術大学卒業後、住宅メーカー、デザイン事務所、インテリアショップ勤務を経て、2014年に株式会社シュウヘンカを設立。「作り手」「伝え手」両方に携わった経験を活かし、地域とデザインを繋げる様々なデザイン活動の企画、運営を行っている。
●取材を終えて
初日の夜に150人で乾杯する見本市など世界中を見渡してもそうはないだろう。 「ててて見本市」恒例の交流会には毎年、出展者の大半が出席するという。ただの飲み会ではない。それぞれの現状やものづくりにおける工夫を話し合い、悩みを相談し、ときには協業すら生み出す。永田宙郷さん(ててて協働組合)の言葉を借りれば「ててて第二部」だ。 各地で息づく手仕事を次々と世に送り出してきた「ててて見本市」の強みはこの連帯感にある。取材中、会場のあちこちで「複数の」出展者がバイヤーを交えてアイデアや理想を語り合う様子が印象的だった。一対一の商談ではなく、3人、5人のグループが次々と生まれていく風景は、もはや展示会という枠組みでは語れない。
「ててて協働組合」の4人は、こうした「『ててて』らしさ」を「仲間」(大治)、「コミュニティ」(永田)、「生態系」(まつお)、「共同体」(吉川)とそれぞれ異なる言葉で表現した。前例が無いだけに、どの言葉でも彼らの理念を語るには足りないのだろう。6年目を迎えた彼らが「誰もがひと言で思想を理解できる言葉をつくらなくてはいけない」(まつお)と語るのも、それが次の階段を上がるために不可欠だと肌で感じているからだろう。
2011年に立ち上げ、わずか20組の出展者から始まった手作りの見本市は、6年間を経て、北海道から沖縄まで文字通り全国各地から100組が出展する規模に成長した。 「中量生産・手工業」という価値観のもと、手仕事の生産と流通に新しい文化をもたらそうとする「ててて見本市」。そのコミュニティの動向に今後も注目したい。
ててて協働組合
http://tetete.jp/
https://www.facebook.com/tetetecommittee
SPECIAL
TEXT BY YUJI YONEHARA
PHOTOGRAPHS BY MITSUYUKI NAKAJIMA
17.03.20 MON 20:31