地域の魅力を体感するイベントが、地場産業復活の鍵になる
−「RENEW」福井県鯖江市 編−

各地で伝統的なものづくりの振興を軸とした地域活性化をねらうイベントの開催が相次いでいる。取り組み手法はさまざまだが、集客やブランディング効果において明暗が分かれている。
本稿では、目覚しい発展をみせている工芸イベントの事例から、地域のブランディングと工芸振興の関係性を読み解く。

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−「RENEW」福井県鯖江市 編−

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地域の魅力を体感するイベントが、地場産業復活の鍵になる
−「RENEW」福井県鯖江市 編−

福井県鯖江市の河和田地区で開催されている「RENEW」はオープンファクトリーとワークショップ、地域産品の物販を融合させた体験型マーケットだ。2回目となる2016年は参加企業37社、来場者は2日間で2000人におよんだ。その勢いは止まらず、今年は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、奈良を拠点に活動する中川政七商店による「大日本市博覧会」とタッグを組んでの開催となった。

■「RENEW × 大日本市鯖江博覧会」2017年の開催情報

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-2017年度開催概要-
【開催期間】2017年10月12日(木) ― 10月15日(日)
【開催地】福井県鯖江市河和田地区および周辺地域
【総合案内】うるしの里会館(福井県鯖江市西袋町40-1-2)
【同時開催】・Creema Craft Caravan in 鯖江 ・河和田移住EXPO ・福井クラフトツーリズム ・浜町発酵夜市

3年目にして、一大イベントへと成長を遂げている「RENEW」。地域を越えて約85社もの工房・企業が参加し、まさに年に一度のものづくりの祭典だ。工房見学・実演はもちろん、漆塗り・木工雑貨・眼鏡素材のアクセサリー作りまで、様々なワークショップも開催される。
また、中川政七商店やCreema Craft Caravanの期間限定ショップもオープン、トークやライブなどイベントも盛りだくさん。「ものづくりを目指す若者が目指すまち」というコンセプトを掲げ、移住の最先端を伝える「河和田移住EXPO」も同時開催する。ここ数年で、67名もの作り手やデザイナーが移り住んだという鯖江市河和田地区が持つ、「暮らす土地」としての魅力にも迫る。
この秋、多様な角度からものづくりと触れる旅へ出かけよう。

「RENEW」オフィシャルwebサイト

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■「RENEW」2016年のレポート

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河和田地区は眼鏡や漆器、手漉和紙などの手仕事が盛んな「ものづくりの里」。しかし、かつては各業界を横断的に連携する仕組みが存在しなかったために地域全体でブランディングする機会はなかった。「RENEW」が興ったきっかけは、この地域に移住してきたメンバーで構成されるデザイン+ものづくりユニット「TSUGI」の存在だ。

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「2004年に起きた福井豪雨で河和田地区は壊滅的な被害を受けました。僕は京都精華大学に在学中、大学の先生が企画した『河和田アートキャンプ』に参加し、この地域に関わるようになったんです」(TSUGI 代表 新山直広さん)

新山さんは卒業後も河和田地区の活性化に関わり、河和田町の応用芸術研究所に就職。京都からの移住をすることになる。河和田ではものづくり企業の産業調査などをおこなうなか、地域の課題と解決のアイデアを手にして2012年からは鯖江市役所に臨時嘱託員として地場産業の広報業務を担うことになった。また鯖江市在職中の2013年、同じく関西から移住してきた仲間達ととともに「TSUGI」を立ち上げた。その後2015年に鯖江市役所を退職し、TSUGIを法人化して今に至る。

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■河和田を「創造産地」にするために

「ものづくりを変えるためには、まず生産者が変わらなければいけない。地域から創造的に変化をもたらしていく『創造産地』を目指さなければ、と思ったんです」
2015年に「RENEW」を立ち上げたときには、22社の参加企業が賛同した。2年目に15社が増えた実績を新山さんは「なによりの変化、改革だった」と語る。
「RENEW」では各工房を巡る際にレンタサイクルが貸し出されている。期間中、楽しげに自転車を漕ぐ来場者が印象的だった。この自転車、新山さんら運営が地域の協力を得て集めたものだ。

「ふだん地元のおばちゃんが乗っている自転車も、このイベントでは立派な移動手段。よく見ると名前や住所が書いてあるでしょう。これは、地域の皆さんが協力してくれている証でもあると思っているんです」

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■「RENEW」が考える、イベントのありかた

工房では製作風景の見学のほか、ワークショップも開催されている。イベント集客効果だけではなく、参加者が自身で製作したものを持ち帰り、河和田のものづくりを思い返してもらうための仕掛けでもある。

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また、会期中に8ヵ所以上の工房を巡り、スタンプを集めるとオリジナルフレームをプレゼントしている。木工やメガネの端材でつくられたこのバッジは同イベントのローコスト運営の象徴だ。

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「謙遜でも比喩でもなく、本当の意味での手作りイベント。運営も参加企業も直近の収益には結びつかないが、それでも盛り上げようと努力するのは『いま、アピールをしなければ河和田に未来はない』と信じているから。いずれはバイヤーが多く訪れて商談が盛んになればうれしいですが、それまでにまずこの地域全体の魅力を発信しなければ。河和田にはB to Bの企業がとても多いため、なかなかものづくりの魅力を伝えられなかった課題がありましたが、『RENEW』を通じて職人の底力を体感してもらえたら」

北陸の片隅で、移住者と地域の生産者が生んだイベントが、地域ブランディングのあり方を大きく変えようとしている。

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「燕三条 工場の祭典」編はこちら

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TEXT BY YUJI YONEHARA

PHOTOGRAPHS BY MITSUYUKI NAKAJIMA

17.09.25 MON 17:44

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