■行政の支え、民間の実行力
これまでの地場産業、地域振興の活性化といえば補助金をあてにした行政主導のものが主流だった。人気だったイベントが3年ほどで突然終わりを迎えてしまうのは「手弁当でも続けよう」と立つ当事者がいないことを意味している。
「燕三条 工場の祭典」を訪れてもっとも印象的だったのは、行政が徹底して裏方に回っている様子だった。
当然ながら、三条市、燕市ともに「燕三条 工場の祭典」に対する補助はおこなわれており、「金は出しても、口は出さない」関係性は、地域イベントのひとつの理想型だ。しかし、その理想を地で行く運営にいたるまでには2013年スタート時からの地道な成果の積み重ねがあった。
三条市役所で運営を担当する横山裕久さん(経済部商工課 主事)は、「回を追うごとに工場の皆さんの意識が高まっているのを感じる」と話す。
「参加工場は第1回の倍近くにまで増えましたが、全体の結束はより強固になったと感じます。当日の運営はもちろん、イベント企画や広報活動なども工場の皆さんの手によるもので、強い当事者意識を実感します。これからも行政の役割は手助け、土台づくりにとどめるつもり。主役は工場ですから」
工場の祭典がスタートした時にもっとも重視されたのは持続性。一過性のイベントで集客や売り上げ増加をねらうのではなく、地域全体のブランド価値を向上し続ける内容が求められた。そのために、ふたつの市を中心に点在する各工場を「面」で繋ぐ方法が模索されたのだ。
■デザインの力が地域を変える
「燕三条 工場の祭典」の期間中、燕三条地域に点在する各工場はピンクのストライプで彩られる。見学可能な工場をあらわす目印として機能するこのデザインは、「燕三条 工場の祭典」全体のキービジュアルでもある。同じデザインのTシャツを着用したスタッフの姿とともに、はじめて燕三条地域を訪れた人にも「燕三条 工場の祭典」が実施されている場所がすぐにわかる工夫だ。
イベント全体のデザインワークは、新潟県の長岡造形大学を卒業したデザインユニットSPREADが担当。印象的なピンクとシルバーのグラフィックは鍛冶仕事の「炎と金属」からインスピレーションを得て生まれたものだという。
「工場の祭典以前は「炎と金属」のイメージから「赤と黒」が地域のカラーとなっていました。ところが私たちが実際に工場めぐりをしてみると、目に飛び込んできたのは「鮮やかなピンクと光り輝くシルバー」でした。「炎と金属」の記憶はそのまま「赤と黒」を「ピンクとシルバー」に変換しました。
また、ほどんどの工場には「黄と黒のストライプ」があり、これは「危険・注意」のサインです。工場に立ち入る以上、イベント期間中も「危険」には変わりがないので、「注意しながら楽しむ」意味を込めて「ピンクのストライプ」に変換。工場巡りの中で印象的だった工場の風景を意匠化したのです。
サインの素材にテープや段ボールを使用したのは、工場の皆さんが慣れ親しんだ素材だからです。『工場と一緒に、心も開いて』といっても、普段行っていないことは最初はなかなか難しいものです。慣れ親しんだ素材なら、それを通して職人さん独自のコミュニケーションが出来るのではないかと考えました。もちろん、線の太さや間隔などのガイドラインは遵守してもらっていますが、地元の皆さんによる『自分たちがつくるイベントなんだ』という一体感をデザインで後押ししたかった」(SPREAD 小林弘和)
印象的なビジュアルで広報面に寄与するのがオフィシャル写真を担当するフォトグラファー、神宮巨樹さんの仕事だ。期間中は記録撮影で各工場を巡る彼が写し撮る世界観に惹かれて燕三条を訪れる人も多い。
工場の祭典の公式ブックレット(デザイン/SPREAD、写真/神宮巨樹、古平和弘、編集/「燕三条 工場の祭典」実行委員会)は無料配布だが、現地でしか入手できない「燕三条 工場の祭典」の「目玉」のひとつだ。
■「工場の祭典」2017年の開催情報
–2017年度開催概要—
開け、KOUBA!燕三条に丸ごと触れる秋の4日間
「燕三条 工場の祭典」 http://kouba-fes.jp/
【開催期間】2017年10月5日(木) ― 10月8日(日)
【開催地】新潟県三条市・燕市全域、及び周辺地域
オフィシャルツアー詳細はこちら(http://kouba-fes.jp/tour-2017/)
SPECIAL
TEXT BY YUJI YONEHARA
PHOTOGRAPHS BY SHINGO YAMASAKI
17.09.21 THU 18:36