ー全部が生活。体の尺度で生活したい。
彼は篠山に移る少し前から木に触れながらの創作活動を始めている。その素材となる木との出会い、巡り合わせは自身で山に入ったり、旅先での収集、人から譲り受けるという自分や知人といった関係性の輪の中から縁あって彼の手に迎えられる。
「篠山の山に入ったり、倒木を取りに行ったりはしますけど、無理に探すというより、近くの山のお気に入りの池のほとりにリラックスしに出かけたついでとか、自分たちの生活の延長の中で見つける事が多いですね。取りに行くというよりかは出会いにいくという感じです。狙って探すぞ!ってなると意外となくて、肩の力が抜けてると巡り会ったりするんです、不思議なんですが。」
山に入る、散歩をする、掃除をする、刃物を研ぐ、創作活動に直接的に関係しそうなことと、そうではなさそうな言葉がお話を聞きながら溢れ出てくる。
創作と暮らしは隣同士にあるものではなくて、彼の中では全てが混ざり合っているように感じた。
「創作だけを抜き出して考えることは難しくて、日課の散歩も、山や川に材料となる木を取りにいくのも、創作活動も、夕飯の時間も、子どもとの時間も、すべて並列で生活の一部という考え方のほうが自分としてはしっくりきますね。当たり前だけれど全部が生活。
煮詰まった時に気晴らしで散歩に出かけて、そこで小さな発見があったり、刃物を研ぎながら心を落ち着かせたり。極端にいうと、昔の人たちの暮らしは生活の流れの中で畑を耕したり何かを作ったりしながらも、薪を拾い、お風呂を湧かすのが当たり前だし、体を動かしながら生活していましたよね。
懐古主義ではないんですが自分もフィジカル、『体の尺度』で創作活動も生活もしているんだと思います。
以前暮らしていた土地は山の中過ぎて、自然が強かったという。
家族で篠山に移り住んで4年目、この土地での暮らしで何か変化に気づけたのだろうか。
「山の美しさはもちろんのこと、篠山は視界的に開けていて、いい気が自分たちに入ってくる感覚もあるし、人と土地や文化的なもののバランスがいいと思います。
大きな変化は求めていないんだけど、3年住んでいると地元の祭りとか地域の人とも馴染んできて、だんだん町の一員になってきているなと感じるようになってきましたね。ここは城下町なのでお祭りの手伝いとか、回覧板のやり取りにお野菜頂いたり。
それはもちろんこの土地の風土がそうさせているんだけれど、その風土が自分たちのベースになりつつあって、そこでの生活、さらに言うと創作活動の中で自分のバイオリズムに気づけるようになってきました。」
「篠山に来る前はまだ木を触りだしたばかりで肩に力が入っていて自己表現をしようとしている部分があったのが、なぜかこっちに来てからはそれが薄らいできています。
自分と木との間に作品があるとしたら、以前は今よりも自分の意志の方に引っ張ろうとしていた感覚が強かったけれど、今はもう少し柔軟性が出てきいる気がします。
バランスというのかな、押し引きができるようになってきているというのかな。」
自分の体の尺度で暮らしや創作と向き合い、その中でどうしてもうまくいかなかったり、手が止まるときは流れに身を任せる事もあるという福井さん、敢えていつもしない事をしてみたり検証の時間に充てることもあるという。ただその姿勢はただ流れに身を任せているだけとは少し違いそうだ。
「『視座』という言葉があるんですが、ある点を指す「視点」や見る角度を指す「視野」とも違うように捉えていて、自分がどこに座るか、自分をどこに据えるのかを考える事はあります。ふと立ち止まって、どこに立って腰を下ろすのか。あまり固定的にしすぎず、変化も受け入れながらですね。『視座』は常に自分の中で動いています。」
手が止まる、流れが止まるということは、ともすると否定的に感じられるけれど、
彼はポジティブにそれを捉え、「視座」と言う言葉とともに流れの中に身を置く、その姿勢にはしなやかな強さがある。
この先の創作の展望は?と訪ねると即座に「越境したいんです。」と答えが返ってきた。
「いろんな価値観が世の中にはあるけれど、自分の作品を通して何かを発信し続ける事で壁を下げ、風通しをよくすることをしたい。壁とかジャンルとか関係なく魅力があるものを作りたいですね。」と続けた彼の表情や創作へ取り組む姿勢を見ていると、彼が壁を軽やかに飛び越えている姿が想像できて、また折をみてお話を伺いたくなった。
今日も彼は散歩に出て、何か小さな気づきを見つけているに違いない。
1985年 兵庫県神戸市生まれ
2007年 神戸芸術大学卒業
2007年 プロダクトデザイン事務所設立
2014年 独立。日常と彫刻をテーマに木を通した作品制作を始める
2015年 兵庫県丹波篠山市へと活動の拠点を移す
http://www.mamorufukui.com/
「Found object」
2019年2月23日-3月5日
東京は早稲田にある On the shore にて
archipelago 店主
1982年、埼玉県鴻巣市生まれ。
2007年、京都造形芸術大学卒業後、アパレルブランドプランナーを経て、2015年独立、暮らしのベースを兵庫県丹波篠山に移す。
2016年、生活道具、洋服、本、家具などを扱うセレクトショップ、archipelago(アーキペラゴ)オープン。 住空間や店舗、ブランド立ち上げなどにも携わっている。
www.archipelago.me
SPECIAL
TEXT BY NOBUYUKI KOSUGE
PHOTOGRAPHS BY KOHEI YAMAMOTO
19.02.26 TUE 23:03