左:第20代会長 山本晃久氏(和鏡)
1975年(昭和50)、京都市生まれ。国内で数少ない手仕事による和鏡・神鏡・魔鏡を製作する山本合金製作所に生まれ、大学を卒業後、家業に入る。祖父、山本凰龍に師事して伝統技法を受け継ぎ、全国の社寺の御霊代鏡や御神鏡の製作や研ぎ直し、博物館所蔵の鏡復元に携わっている。わかば会会長として2007年~2009年に在任)
右:第25代会長 小嶋俊氏(提灯)
1985年(昭和60)、京都市生まれ。高校卒業後、家業である京提灯製造卸 小嶋商店で提灯製造に励む。京提灯の特徴である地張り式製法の「武骨で丈夫」な提灯に惹かれ家業を継ぐことを決めた。現在はあかりブランド「小菱屋忠兵衛」を立ち上げ、内装照明、インスタレーションを中心に京提灯の魅力を発信。2017年に会長に就任。
■新需要の開拓
米原 時代の移り変わりとともにわかば会の活動内容も大きく変化してきましたね。とくに現在はテーマを設定した作品展や販路開拓に注力しているそうですね。
小嶋 わかば会はさまざまな業種や立場の職人さん方が参加しています。たとえば、工房に併設された店舗で販売もする職人さんもいれば、特定の問屋さんにしか卸していない職人さんもいます。そうした皆が同じ取り組みをしてもうまくいきませんので、それぞれの特性に合わせた活動をしていますね。
山本 うちの「和鏡」のような宗教分野の職人さんもたくさんいますからね。工房によっては、無理して新分野に取り組まずに、本業を伸ばす方法を考えるほうが合っていることもあります。
小嶋 そうなんですよね。昔からある商品、取引先との発展的な商売ができるならそれが一番。
米原 以前は、補助事業でおこなう取り組みで、直接的に営業や販売に繋がることは自粛傾向でしたね。
清水 たしかに「税金を頂いている活動で商売を広げるなんて」という不文律がありましたね。展覧会などの趣旨もどちらかといえば「伝統産業のPR」でとどめていた。展示品のキャプションに価格を入れるかどうかで大議論でしたからね。
小嶋 今、展覧会ではほとんどの作品に価格を記載していますし、伝統産業の魅力や制作の過程を伝えられるように作者の職人がそばに立っていることも多いです。
浅野 今はそんなことも言っていられない状況だということですよね。良い仕事を続けていくには売らなくちゃいけないんだから、チャンスはどんどん活かしてほしいですね。
■世代ごとの役割
浅野 時代に応じて変わってこその「伝統」。売れ続け、技術が残り続けるように職人のあり方も変化して当然ですよね。とくにわかば会のような若手の皆さんの活動は柔軟であるべきだと思います。
山本 私が会長をしていた2008年(平成20)前後には「販路開拓をしたい」という要望が高まっていました。若手職人たちが「この先、伝統産業はどうなるんだろう」という危機感を共有し始めていました。
米原 現在は「京都伝統産業ふれあい館」が、展示・販売・PRと新しい取り組みの拠点のひとつになっていますね。とくに展示は海外からの観光客に好評で、昨年には海外の旅行情報サイトのトリップアドバイザーで「無料観光スポットランキング2017」国内5位にランクインしました。
山本 展示品の反応を確かめられる、実験的な取り組みができる場所があるのはうれしいですね。
小嶋 「和鏡」や「提灯」のように、小売販売店が無い業種には助かりますよね。普段はお客さんの声を聞く機会が無い業種ですから。
清水 うちの「額・看板」もそうですよ。基本形が定まっていて変えることができないなかで、いかに新しさを生み出そうかといつも頭を抱えています。難しい課題ですよね。山本さん、そのあたりお父さんとはどんな話をするの?
山本 父とはそういった話はしませんね。私の世代は「手仕事の豊かさ」や「伝統産業の魅力」を世の中に知ってもらうところからはじめる必要があるけど、父の世代は祖父が拓いた取り引きを拡大するのが役割でした。それぞれ違いがあるし、一緒に取り組みはせずに役割分担をしているという感じです。
■新たなものづくりへの挑戦
米原 近年、わかば会の中でも異業種とコラボレーションした商品開発をおこなっている事例もでてきていますね。
小嶋 デザイナーさんと一緒にブランディングや価格帯まで綿密に設定したプロダクトを制作するプロジェクトに参加する職人も出始めていますね。私もデンマークやパリのデザイナーと一緒に作品を作るなど、提灯を基礎に新たなものづくりに挑戦しています。
山本 新しい商品ではなく、昔ながらの販売方法やブランディングを工夫する手法もありますね。
小嶋 そうですね。こういった取り組みは業種によって向き不向きがあるので、それぞれの得意分野を伸ばしていきたいと思っています。今は会長として、会員さんたちに異業種の人との出会いの場をつくり、新しい取り組みのきっかけが生まれるよう に見守っています。
清水 私の頃はそういった取り組みは無かったから羨ましいなぁ。
浅野 職人は「こうしちゃいかん」「こうすべきだ」と、固定観念に縛られがち。でも、思いきって前例が無いことにチャレンジしないと先はないよね。
小嶋 そうなんです。いくら小難しい議論を重ねても、売れないと技術の継承も無い。うちもそうですが、若い職人たちは「明日の稼ぎをどうするか」というギリギリのところで頑張っていますから。
浅野 私も新しい取り組みを見て頂こうと思い、仕事をひとつ持参しました。こちらのG-SHOCKはベゼルとベルトの一部にうちの工房で鎚起を施した朧銀(銅と銀の合金)が使われています。
山本 おお!話は伺っていましたが、実物を目にするのは初めてです。すごい質感ですね。
小嶋 格好いいですねえ。お世辞抜きに欲しい。
浅野 若い方にそう言って頂いてうれしいです。日頃は仏具や茶道具などの仕事が多いのですが、その技法がふんだんに盛り込まれています。
米原 技術は変わらず、用途が変わる。だから、まったく新しい分野でも無理なく対応できるんですね。「時代に応じて変わっていく」とはこういうことじゃないかな。とても理想的なお仕事ですね。
小嶋 今の若手のチャレンジも見てほしいなぁ。今年も3月に京都市勧業館みやこめっせで、展示会を開催しますのでぜひお越し下さい。
【会期】:2018年(平成30)3月17日(土)、18日(日)
【時間】:10時~17時(最終日は16時まで)
【場所】:京都市館業館みやこめっせ(京都市左京区岡崎成勝寺町9−1)
>>> 創設50年を迎える若手職人の集い「京の伝統産業わかば会」、歴代会長座談会<前編>
[撮影地]
旧三井家下鴨別邸
京都市左京区下鴨宮河町58-2
http://www.kyokanko.or.jp/mitsuike/
INTERVIEW
TEXT BY YUJI YONEHARA
PHOTOGRAPHS BY MASUHIRO MACHIDA
18.03.12 MON 22:43