釡のなかでコークスを焚いて、温度は銅が溶けだす1100℃を超えて、1250℃以上にまで達する。銅とスズを溶かした“湯”を釡からすくい、鋳型へ流しこむ作業は、南條工房の7代目となる南條和哉さんが一手に引き受けている。グツグツ煮えたぎる“湯”を釡からすくって注ぐ。行為としては単純だが、危険が伴う重労働。ちょうどいい温度、タイミングで作業を進めるのは、経験と勘が頼りで、「すくったときの色や流れ具合、煙の量などで判断している」という。
銅とスズからなる“湯”を釡で溶かすのと同時に、鋳型を別の窯で焼き締める。こちらの窯は薪で焚く。中まで真っ赤に焼けたら窯から出して自然冷却。この冷める頃合いと“湯”のできる時間がちょうど合うように、ふたつの釡/窯の火加減や火に入れるタイミングを調整する。働く4人による、あうんの呼吸。 「どうして鋳型を火にかけるか? 昔からその製法で伝承してきてるさかいな、アホのひとつ覚えや(笑)。非効率やと思われるかもしれんけど、そうせな、いい音が鳴らんから」と叔父さん。
鋳型に“湯”を注いだ後、しばらく冷まして鋳型を割れば、おりんの姿が現れる。しかし、そこから4回の削りと磨きの作業が待っている。と同時に、壱越(いちこつ)と呼ばれる音への調律も。南條工房のおりんは、スーッと伸びる音が特徴的。スズの含有率を限界まで高くして、材質を固くしているゆえの音だという。 なお、削りカスやうまくできなかったおりんは、また釡で溶かして使われる。
昔は毎週1回は鋳造していたというが、今では月に3回程度。それでも、朝から昼すぎまでの鋳造作業で、200~220個ほどのおりんを鋳造する。そして、鋳造の日は、なぜかオロナミンCが南條工房の定番ドリンクだ。 「鋳造の日は、家に帰っても体の中がずっと熱いんです。内側から冷やしたくて、アイスを何個も食べたりします。それでも、鋳造がいちばん好き。普段は職人それぞれ別の作業をしてますけど、この日はみんなで協力して動くというのも面白いですし、鋳造は、できてみないとわからないという、ちょっとした賭けの要素もあってアドレナリンが出ます(笑)。なにより、火花が生きてるみたい。最初のころは、いつまでも火に見とれていました。むちゃくちゃ熱いんですけどね」(南條和哉)。
STUDIO
TEXT BY ATSUSHI TAKEUCHI
PHOTOGRAPHS BY MASUHIRO MACHIDA
18.09.13 THU 19:56