TOP CRAFTS NOW CULTURE サーフィンから工芸へ

CULTURE

サーフィンから工芸へ

工芸やモノづくりといった言葉はどこかノスタルジーを帯びているように感じてしまう。それって工芸の話をするときに、手や道具、過去からの連 続性、生真面目な職人らしさといった根本にばかり目を向けてきたからかもしれない。だけど、工芸の現場は、同時代の気のおけない友人たちが、 周りと変わらない日常生活を送りながら試行錯誤しているというのがホントのところ。というわけで、今回はサーフィンから工芸に迫ってみたい。

漆とサーフィンの出会いは必然!?
漆を精製、販売している京都の「堤淺吉漆店」。その4代目となる堤卓也さんは、日頃からスケボーで街をクルージングして楽しんでいる。そして、 休日になればボードを持って海や冬山へ。そうした遊びやカルチャーが堤さんにとって身近なものだ。

世界中のサーファーのライフスタイルを撮った『スプラウト』は、サーフィン好きには知られたサーフムービー。この映画をたまたま観て、堤さん は、はるか昔のハワイで乗られていたというウッドボード「アライヤ」と、それを現代によみがえらせるべく制作しているトム・ウェグナーのこと を知った。

「僕らが乗ってるサーフボードって、ポリエステル素材に樹脂を固めたもので、ゆくゆくはゴミなんです。遊んでる海を汚してるようなところもあ る。けど、トムさんは庭で木を育てて、アライヤをつくった削りカスもまた森に戻してということをやっていてすごく共感できた。この人がつくる アライヤに漆を塗れたらいいなって」

漆もまた木から採取できる天然素材。ただ、漆そのものの使用量は減り続けていて、また国内の漆産地の状況も厳しく、現在、日本では国産漆はほ とんど流通していないという現状だ。

「サーファーのような海や山で遊んでる人には、循環エネルギーを大事にしたいといった、僕とも共通するような価値観がある。そこと漆をリンク させることで、漆に興味をもつキッカケになるかもしれないし、そこからさらに僕とは違う能力を持つ人が漆で何かをやってくれるかもしれない。 自分ひとりで漆の消費量を増やすことはできないけど、いろんな輪がつながっていけば、面白くなるんじゃないかなと思います」

堤さんはオーストラリアのトム・ウェグナーのもとを訪ねて、オリジナルのウッドボード「アライヤ」を削り出してもらい、漆を塗った。その様子 は海外のチームによって写真や動画として記録され、今後は世界へと拡散していく予定。 漆とサーフィン、身近なカルチャーの出会いをつくりだした堤卓也の行動力。これもまたいまを生きる工芸家のやり方だと思う。

堤卓也 1978年生まれ。漆を精製する「堤淺吉漆店」で働きながら、漆の魅力を伝えることに尽力。サーフボードだけでなく、スケボーやBMXにも漆を塗装している。
http://www.kourin-urushi.com

「堤淺吉漆店」堤卓也、サーフボードのシェイパーとして知られるトム・ウェグナー。ふたりの出会いから生まれた漆で塗装されたウッドボード 「アライヤ」。鏡のように空や海を映し出す。

浮力が少ないため、慣れたサーファーでも実は乗りこなすのはかなり難しいという「アライヤ」。モデルを務めたガスは高校生サーファーながら、 軽々と波をつかまえてみせた。

「アライヤ」を削り出すトム・ウェグナー。天然素材のサーフワックスがまだまだ少ない中、その代わりとなる漆との出会いにトムも大興奮。見た 目の美しさに加えて、ボードとしての性能もアップしたという。

CULTURE

TEXT BY Atsushi Takeuchi

PHOTOGRAPHS BY Ryan Jones

20.04.14 TUE 18:14

- RELATED POST -関連する記事