KOUGEI NOW 2019
Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE”
「未来志向のものづくり」を意識した作品やプロダクトが並ぶ展示販売会。
2019年3月7日(木)、8日(金)、9日(土)、「親密な工芸」をテーマに、ホテルカンラ京都にて開催。うなぎの寝床、ystudio、花背 WARA、ginger、壜壥、南條工房、RAKUKEI、蘇嶐窯、ケイコロール、orit.、POLSほか、約70組が参加する。
3月7日(木)16:30〜18:00には福田春美 × 鈴木修司のトークイベントも開催。http://kougeinow.com/
1968年北海道札幌育ち。ファッションディレクターとして活躍したのち、2006年に渡仏。帰国後の東日本大震災で人生の価値観が変わり、ライフスタイル全般をブランディングするブランディングディレクターの活動をはじめる。現在ライフワークの一環で、地元・北海道の若いクリエイターや埋もれたクラフトに光を当てるべく、こまめに道東へ通う日々。著書に「ずぼらとこまめ」(主婦の生活社)がある。
https://www.instagram.com/haruhamiru/?hl=ja
1976年福岡県小石原生まれ。実家は14代続く小石原焼の窯元。佐賀大学教育学部造形文化コース卒業。京都府立陶工高等技術専門校 陶磁器成形科・研究科修了。未来の名匠認定。京都で青磁をつくる4代目の涌波蘇嶐氏と京都の陶芸学校で出会い結婚。それぞれの窯元の特徴を活かした陶器ブランド「蘇嶐窯」を立ち上げる。
http://soryu-gama.com
清水寺や八坂神社など寺社が並び、歩くだけで歴史を感じることができる京都・東山に工房兼ギャラリーをかまえる「蘇嶐窯」。
京都で青磁の窯元として4代目の涌波蘇嶐さんと、福岡で14代続く小石原焼の窯元で生まれた涌波まどかさん。 真逆の作風の窯元で育ってきた二人が京都の陶芸学校で出会い結婚。それぞれの窯元の特徴を活かした陶器ブランド「蘇嶐窯」を立ち上げた。二人だからこそできた青磁の器の中には、どんな景色が広がっているのか。DIALOGUEキュレーター・北澤みずきさんの案内のもと、ブランディングディレクターの福田春美さんと工房を訪ねた。
「青磁は隙がないというか、おりこうさんなイメージを持っていて、若い頃から自分にはわからない世界なんだろうなって。最近になって素敵だなと思えるようになりました。(福田)」。
雑誌の連載やブランディングディレクターとして関わる仕事で日本各地の産地を訪ね、器に触れてきた福田さん。今回青磁の工房を訪ねるのははじめてだという。福田さんのお父さんは東京の成蹊大学の茶道部を立ち上げた一人で、小さい頃から青磁の茶道具も身近にある環境で育った。当時は茶道の世界が分かる年齢でなかったこともあり、お父さんが好きな器の世界と自分が好きな器の世界は全く違うと思いながら成長。ところが震災後に、お父さんの茶道具コレクションを見る機会があり、青磁にも興味を持つようになったという。それはファッションディレクターをやめて、ライフスタイル全般のディレクターとして仕事をはじめる直前のことだった。
「佇まいが凛としていますもんね。私も最初嫁いだときは青い器でご飯を食べるのには抵抗がありました。一緒に仕事をするようになって手間がかかる青磁の奥深さを知ると、値段や美しさの理由が分かるようになり、もっとたくさんの人に知っていただけたらという思いが強くなりました。(まどか)」
まどかさんの実家は小石原焼という民芸系の器をつくる家。嫁ぎ先の京都は釉薬や土も全く異なる茶道具や花瓶をつくる青磁の家。当初まどかさんは旦那さんの4代涌波蘇嶐としての作家の仕事をサポートしていたが、陶芸の世界で他産地同士が結婚するのは大変珍しいことだと周りの人から言われたのを機に、作家活動とは別の柱として新たに二人の強みを生かしたブランドを立ち上げることになる。
「他産地同士というのが二人にしかない個性だと気づき、私の実家の方で使う飛鉋という技法を青磁に取り入れました。彼が代々守り継いだ青磁の美しい青色をもっといろんな人に知ってもらうきっかけになればと、茶道具の印象が強い青磁の高価なイメージとは違う、日常で使いやすい器を作陶しています。(まどか)」
「薄いですね! 器は薄いか分厚いか、どっちかが好きです。こちらの器は重ねた時に面一になるのがいいですね。(福田)」
気になった器を一つ一つ感じていく。たくさんの器を見て触れて、自分の好みを分かっている福田さんだからこその感想だった。福田さんはストレス発散がごはんをつくることというくらい、普段から料理をするため、自宅には数え切れないほどの器があるという。「Hamiru亭」と友人が名付けた自宅で開くパーティーには、丁寧に仕込んだ料理がお気に入りの器に盛られて出される。器を選ぶときは手の中にはまり心地のいいもの、作る料理が見えるかどうかが基準だという。
2018年11月にリニューアルしたばかりのギャラリー兼工房には、4代涌波蘇嶐の作家としての作品から、茶碗、湯飲み、マグカップ、お皿、花瓶など、普段使いしやすい形も色もさまざまな青磁を中心とした器が並ぶ。
「15年前にここへ引越しをしてきたときは工房でしかなかったのですが、ガラス張りの通り沿い側に作品を並べていたら、外国人旅行者がここ数年たくさん来てくださるようになり、せっかくならここを整えて、蘇嶐窯の器を知ってもらえる場所にしようということで改装しました。なかなか京都はものづくりの現場を見ることができないので、ろくろを回している自分たちの姿を見てもらえるのもこの工房の強みです。(まどか)」
通りに面した工房は風通しが良く、一見さんも気軽に入れる雰囲気。ガラス越しに見える器に惹かれて、取材の間にも外国人観光客が訪ねてくるほどだ。
「よく旦那さんと私のどっちがつくった作品ですか?って聞かれるんですけど、ほとんどのものは二人の手が入っているように思います。お互いに得意不得意があって、数物をひくときや大きなものをひくときは旦那さん。飛び鉋の模様をつけるのは私ですし、デザインを考えるのが得意なので旦那さんにつくってもらって、削るのは私がやることが多いです。(まどか)」
お互いのいいところを補い合いながらつくる。夫婦という関係性でありながら、お互いを尊敬しているからこそできる仕事は、使う人のことを考えたやさしい器だ。
まどかさんに飛鉋の技法を見せてもらったが、それは一瞬の仕事だった。あまりの速さに福田さんも驚く。リズムよく鉋の跡が器の中に2秒で刻まれ、景色が生まれる。小石原焼の場合、赤土で成形したお茶碗に白化粧をかけ、ろくろを回しながら鉄の鉋の先をあて、化粧土を削って鉋の跡をつけていくが、青磁に取り入れる場合は、成形し半乾燥した茶碗に刷毛で水を回して硬さを調整し、そこに鉋の跡をつける。土が柔らかいため、ろくろを回しながら鉋を当てていくと、土の抵抗にひっかかって小さく弾いていく。ろくろの回転の速さ、道具の角度、土の柔らかさ。全てが相まってこそ描ける景色。まどかさんは作陶をはじめて20年になるが、5年前くらいからようやく納得の行く模様が描けるようになったという。
「青磁は絵を描いたりなどの過度な装飾が向かないので、ほとんどが色と形で表現することが多いです。何を落とし込めるかを考えて飛鉋という技法を取り入れてみると、削った溝に釉薬が溜まって、濃淡が出るのが新しい景色になることに気づいたんです。民芸系の技法なので、茶道具の青磁に取り入れるのは躊躇した部分もありましたが、青磁の範囲からははみ出ないように、やり過ぎないよう技術を落とし込んでいます。(まどか)」
ろくろが2台並ぶ工房で、普段は夫婦で並び作陶している。旦那さんはあぐらをかいて台の上に座る京都スタイル、まどかさんは足を下ろす九州スタイル。ろくろの回転も旦那さんは右回転、まどかさんは左回転というのも対照的で面白い。
作家さんの展示会や取材へ行った先で器を買うことが多いという福田さん。今回お買い上げしたのは、「蘇嶐窯」として台湾のイベントに出店したときにつくった茶器だった。
「コーディネーターとして携わっている北海道のメムアースホテルでコースの合間にお出しする、お出汁を入れる器を探していたんです。道東にある隈研吾さんが設計した実験住宅をホテルにするプロジェクトなんですが、ラウンジや客室で使用されるプロダクトのテーマはヨーロッパやアジアの文化が発祥したものが行き着く先のどんつき。ホテル内では海外のプロダクトや北海道の作家さんのものも取り入れています。プロダクトを探すときは十勝、北海道、日本の順番と決めていて、なかなか北海道でいいものが見つからなかったので、日本でミクスチャーな人を探していたところでした。(福田)」
仕事でも私生活でも、流れにハマるものと出会うまでは何かで代用せず、コレだ!と思うものと出会うまで気長に待つという福田さん。その瞬間が、まさにこの日訪れた。
「前後のお皿の感じを考えたときに丁度いいなって。まどかさんから聞く器の背景にある物語もプラスされてミクスチャー感にグッときました。この茶色いラインも素敵ですし、触り心地もいいですね。青磁を買うのは今回がはじめてです。(福田)」
「私は青磁のことはまったく語れなくて、敷居が高いと思っていたけれど、最初に触った瞬間にまどかさんがつくる器の薄さが好きになりました。器を並べる重機一つを見ても、つくることへの覚悟が伝わってきます。作品と向き合う中で葛藤される思いが重すぎちゃうと、使う人にフィットしなくなってしまう場合もあると思うんでうけど、蘇嶐窯はすごく楽しんでつくっているのを感じることができました。まだ青磁の器を使ったことがない人にとっても入門しやすいと思うので、まずはここから一歩入るのはいいと思います。(福田)」
福田さんは自分の好きなもの分かっている。触れた瞬間に感じた好きという気持ちを、作る工程や背景にあるストーリー、作り手の覚悟に触れ、確かなものにしていく。
工芸品だからと難しく考えるのではなく、自分の好きものを基準に触れることが、親密になる一番の近道なのかもしれない。
OTHER
TEXT BY YUKI NISHIKAWA
PHOTOGRAPHS BY YOSHIROU MASUDA
19.01.10 THU 09:00