開催期間:2018年10月19日(金)〜21日(日) ※まち/ひと/しごとは10月18日(木)〜21日(日)
開催地:福井県鯖江市・越前市・越前町全域
総合案内:うるしの里会館(福井県鯖江市西袋町40-1-2)
http://renew-fukui.com
■越前漆器・眼鏡エリアを巡る
RENEWの総合案内所「うるしの里会館」から歩いて約3分。錦古里漆器店をDIYで改装したTSUGIのオフィスがある。普段はデザイン事務所として機能しているが、RENEWに合わせて1年に一度だけイベントやワークショップを開催。イベント期間中はTSUGIがブランディングやデザイン手がけるプロダクト、自社ブランドのメガネの素材に新たな価値を見出すアクセサリー、鯖のタイポグラフィがかわいいキャップなどが販売されていた。
河和田地区を中心に漆器・眼鏡エリアで参加した工房や飲食店は合わせて46店舗。そのほとんどへ歩いて巡れるのもこの河和田地区の特徴だ。地元の人や県外から来た若者たちが漆器や眼鏡の工房を見学し、ものづくりを体感しながら買い物を楽しんでいる。つくり手の顔が見えるだけでなく、つくる様子を体感することで、ものに宿るストーリーはより深く刻まれるはずだ。
次に訪れたのは丸物木地師・酒井義夫さんの工房「ろくろ舎」。昔ながらの漆器木地製作に留まらず、福井県産杉間伐材を丸太の状態から一つ一つ削り出して仕上げた木製の鉢植えなど独自プロダクトのデザイン・製作や、BEAMS JAPANのオリジナル拭漆椀を手がけるなど様々な企業とのコラボ商品を手がけ、県内外から注目を集めている。
現在は受注会などでオーダーを受けてお椀などの製作を行うのがメインになっているそうだ。
「木地師の世界では職人が自分で売るというのはタブー。セミオーダーで受注を受ける“オンリー椀”をはじめ、僕のやり方は異端ではあります。だからRENEWをきっかけに他の地方から来た方の評価や言葉がはげみになっています。自分のやり方は間違えていなかったと思える瞬間がありますね」と酒井さん。
歴史あるものづくりの街で移住者として伝統を継承し、独自のやり方を見出しながら、正直なものづくりを続けてきた酒井さんの言葉は、ここまでの道のりが平坦ではなかったことを物語る。
最近は、徳島や和歌山、地元北海道など地方で受注会を開催する機会が多くなっているという。
「お椀はきっかけがないと買えないものだと思うので、地域に特化した形があると親近感を持ってもらえる。地方を巡りながら定番と合わせてその地域限定の形を持っていけたら面白いですね。」
鯖江市と越前市の市境に店を構えるセレクトショップ「ataW(アタウ)」を訪ねた。1701年創業の関坂漆器が運営するお店は、福井でつくられたものはもちろん、国内外の作家による食器や洋服、家具、デザインプロダクト、店主の関坂達弘さんの知人・友人が製作する作品、日用品などを販売している。
「RENEW」期間中は、イベントに合わせて「ataWlone(アタウローネ)」と題する特別展示が開催されていた。
「ataWlone」は関坂さんが国内外で活躍する5人のデザイナーを鯖江へ呼び、漆器と和紙の産地の技術を見てもらうことから始めた企画展だ。気になる素材や技術をデザイナーが選び、福井の職人とコラボレートをする形で今回の展示に向けて作品を発表してもらうとい新たな試みは、フィールドワークとリサーチを介し、伝統工芸をデザインで見せるというもの。
「地方からたくさんの人が足を運んでくれるこの期間中に開催できたらと思い企画しました。実験的なものからアートピースなものまで、作品を通して和紙と漆器の技術を違った角度から見せられたらと思って企画したものです。」と関坂さん。
福井の職人がこれまでやってこなかった素材づかいや作り方に挑戦。デザイナーの枠に捉われない新しい発想は、職人たちにとっていい刺激になったという。
■刃物の里でたたら製鉄を再現
包丁やステーキナイフなど、国内外から高い評価を受ける越前打刃物。今回RENEWでは、刃物の里として知られる越前市で、打刃物職人が初めての試みに挑戦した。日本において古代から近世にかけて発展した「たたら製鉄」を再現したのだ。
開催されたのは10月20日(土)。15時から火入れをはじめ、19時ごろには炉から炎が立ち上り、辺りは刃物職人たちの熱気に包まれていた。炉の製作に3週間かかったという。
本来のたたら製鉄は大型の炉で3日3晩火を入れ続けるというものだが、今回は送風しながら砂鉄を燃え尽くすまで炉の中の温度を上げ、包丁の材料となる純粋な玉鋼をつくるというもの。
炉を囲む中には若い職人の姿も多く、昔ながらの技法に興味を掻き立てられているのが伝わってくる。
会場にいた職人さんから越前刃物は若い担い手が増えているという話を聞いた。
30・40代はまだまだ若手で、60代になってやっと一人前という打刃物職人の世界。今回の挑戦では玉鋼を作ることはできなかったが、若い職人の心の中に残る記憶や先輩職人たちの熱い想いは、消えることがないだろう。
■紙の神様を祀る和紙の里を巡る
河和田地区中心部から車で約15分。風情ある和紙漉き工房が軒を連ねる越前和紙エリアは、1500年の歴史を持つ。
室町時代から江戸時代にかけて公家や武士階級の公用紙として使われ全国に広まった越前和紙。明治新政府が発行した最初の紙幣「太政官札」にも採用された。現在では当たり前になっている透かし技法を開発し、これによって日本の紙幣製造技術が飛躍的に進化したと言われている。
今回RENEWに参加する40の工房の中から、3軒の和紙漉き工房を巡った。
最初に訪れたのは清水紙工。越前和紙の加工メーカーとして1947年創業。当初は手加工だったが、機械漉き和紙が漉かれるようになると、機械加工へと徐々にシフトし、現在は主に機械漉きのロール和紙で壁紙や包装用紙を製造している。
工場内は初めて目にする巨大な紙漉きや加工の機械が何台も並ぶ。清水さんが機械ごとにできる加工を説明してくれた。シルクスクリーン印刷での模様の転写、エンボス加工、撥水加工、白地の紙に金をまんべんなく塗装する加工など、最新の印刷加工技術を駆使しながら、越前和紙の風合いを活かしている。
また、機械に頼らない手揉みによるシワ加工は現在も続けている。
「慣れた職人がやらないとうまくシワがでないんです。素手でやるため手がカサカサになりますが、この風合いは手じゃないと出せません」と清水さん。
次に訪れたのは明治8年創業の滝製紙所。手漉き和紙と機械漉き和紙の両方で大紙を製紙している事業所だ。また、手漉きの技術では全国唯一、襖判檀紙を製紙している。
「紙の中では高貴な紙として確立している檀紙。シボと呼ばれるしわ模様がはいっているのが特徴で、小さなサイズを漉いているところはありますが、大きいサイズを漉けるのはうちだけです。」と瀧さん。滝製紙所の手漉き技術の高さを物語る。
「RENEWでの工房見学は、8割くらいが県外からのお客さんですね。和紙を目当てに来られていない方にも、和紙の魅力を伝えられる機会だと思っています。」
RENEWの参加者から直接話を聞くようになり、和紙の認知度の低さを改めて感じたという瀧さん。和紙の使い方の提案ができていないことに気づいたという。RENEWは職人たちの気づきや勉強の場にもなっているのだ。
最後に訪れたのは明治元年創業、越前和紙の手漉き美術小間紙の製作を行う山次製紙所。1950年ごろから「引っ掛け」「漉き合わせ」「流し込み」などの模様小間紙の製造を主に行い、現在も多様柄模様が特徴的な和紙を漉いている。
山次製紙所は独自の「浮き紙」という技法による越前和紙のプロダクトで注目を集めている。エンボス加工よりもエッジの精度が高く、自由な立体表現を創り出す紙は全て手漉き。この紙を巻いた茶筒は、全国から注文が集まる人気商品だ。
「茶缶に巻いたら面白いと思いやってみたら、雑誌の表紙に採用されてびっくりしました。僕たちはこれを見本にして越前和紙を外に出していきたい。OEMで仕事が受けられるようになりたいと思っています。」
これまでの和紙のイメージを覆すような鮮やかな色。立体的な模様が光に当てるとまた違った表情を見せる。「引っ掛け」「漉き合わせ」「流し込み」といった技術を受け継いできた山次製紙所だからこそ作れた和紙。1500年の歴史の1ページに刻まれる、和紙の新たな用途が生まれる日は、そう遠くないのかもしれない。
和紙の工房を巡った後、紙の神様へ滞在のお礼参りに行った。この越前市には日本で唯一「紙祖神・川上御前」を祀っている岡太神社・大瀧神社がある。地元の職人さんにとって、ここは神聖な場所。職人たちは紙の神様をいつも近くに感じながらこの地で和紙を漉いている。毎年5月には福井県無形民俗文化財指定の「神と紙の祭り」というお祭りが開催されている。
階段を登り神門をくぐると、国の重要文化財に指定される本殿と拝殿が姿を現す。建物全体に獅子や龍、鳳凰、草花といった細かな彫刻が施されていることもわかる。その繊細な美しさはしばし見とれてしまうほど。この神社はこの土地が古くより豊かであったことを表している。
来年のRENEWも新しい試みがあるだろう。イベントが軸になり、産地が成長をしていく。前向きな清々しい空気が流れるこのイベントは、来年もたくさんの人が訪れることだろう。
REPORT
TEXT BY YUKI NISHIKAWA
PHOTOGRAPHS BY MASUHIRO MACHIDA
18.12.25 TUE 19:33