工芸ハッカソン
本年度、富山県を中心に開催される「国際北陸工芸サミット」(主催:富山県)のプロジェクトの一つ。富山県内の職人、工芸作家および、国内のアーティスト、エンジニア、プログラマー、科学者、研究者など合計37名が参加し、伝統工芸を活用しつつも、様々な形態でのアウトプットを目指す。審査員は、石橋 素(エンジニア/アーティスト ライゾマティクス 取締役)、林 千晶(ロフトワーク共同創業者 代表取締役)、菱川勢一(映像作家 / 写真家 / 演出家 武蔵野美術大学教授)、高川昭良(高岡市デザイン・工芸センター所長)、高橋正樹(高岡市長)、武山良三(富山大学芸術文化学部 学部長)、能作克治(能作 代表取締役社長)。最優秀賞受賞者1組には30万円、特別賞1組には10万円が贈られる。
9月23日(土)・24日(日):高岡&伝統産業ツアー、アイデアソン
11月18日(土)・19日(日):ハッカソン、公開プレゼンテーション&審査会(一般公開)
2018年1月〜2月:国際北陸工芸サミット「ワールド工芸100選」県内巡回展にて成果展示予定(高岡市、富山市、魚津市)
DAY1:高岡を巡り、高岡を知るツアー
9月23日土曜日午前10時50分、北陸新幹線のJR新高岡駅に37名の参加者とスタッフ、報道陣が一斉に集合した。初日のプログラムでは、バスに乗って高岡の伝統産業の工場や観光地を巡り、ガイダンスを受ける。訪問先は、高岡銅器、高岡漆器の製作を担う鋳造、着色、螺鈿、鍛金の各工房・製作所と、審査会場にもなる「能作」、さらに参加者が3Dプリンターや鋳造場等の設備を利用できる「富山県総合デザインセンター」「高岡市デザイン・工芸センター」。この週末は、高岡を代表するクラフト4大イベント「工芸都市高岡クラフトコンペティション」「高岡クラフト市場街」「銅器団地オープンファクトリー」「金屋町楽市inさまのこ」が同時開催される日程でもあり、ツアーの途中で「金屋町楽市inさまのこ」にも立ち寄った。
1250度で溶かした金属が型に流し込まれる鋳造や、金属が錆や化学反応によって鮮やかに発色する様子など、伝統産業の現場を目の当たりにする一方で、街中では若手職人が工房を案内する「高岡クラフツーリズモ2017」のツアーが行われ、各イベントをめぐるスタンプラリーのカードを首からぶら下げた旅行者の姿があちこちで見られるなど、「ものづくりの町」としての高岡の活気を感じた1日だった。
参加者は子連れのファミリーから外国人まで様々な顔ぶれだ。バイオテクノロジー、ロボティクス、メディアアート、ファッションなど多岐にわたる専門分野と、大手企業や気鋭のクリエイター集団などといった所属から、参加者のレベルの高さが伺える。
参加者の一人である水落大さんは、大手メーカーにてカメラのソフトウェアエンジニアとして働きながら、メディアアート制作や空間演出等の活動をしている。工房を回りながら「古来の鋳造工程がデジタル技術によって進化しているのに驚いた。銅器の着色技法を、パソコンなどの現代の工業製品に応用してみたら面白いかもしれない」と語った。
家族同伴で今回のツアーに参加しているジュエリーデザイナーの胡麻嶋理恵さんは、富山県小矢部市出身で、高岡市の工芸技術を取り入れたジュエリーを製作している。今回の参加目的をこう語った。「高岡市の工房を巡り背景を知り、他ジャンルで活躍する専門家と交流することで、ジュエリーを新しい形へと発展させるヒントを得たいです」。
DAY2:チームを組み、アイデアを洗い出す
2日目は国の重要文化財に指定されている土蔵造りの菅野家住宅で、チームビルディングとアイデアソンが行われた。午前中には、アウトプットワークと、ディスカッション、発表を繰り返しながらアイデアを出していき、午後にはアイデア発表を元に、チーム分けとスケジュール作成へと進んでいく。
今回の「工芸ハッカソン」では、「金工」「漆芸」をテーマにしていることから、作品製作にかかる手順・期間を見込んで、計画的に作業を進める必要がある。例えば、鋳造でものづくりをする場合、「原型製作」「鋳造」「着色表面処理」という手順に1ヶ月以上の期間を要する。DAY4のプレゼンテーションは11月19日。完成目標からスケジュールを逆算し、限られた期間をどのように活かすかが、受賞の鍵となりそうだ。
本イベントの主催者は、一堂に集まった参加者達に「工芸ハッカソン」の背景にある想いをこう語った。
「”手仕事”には心が動かされる魅力があります。それは芸術・自然を美しいと思うのと同じで、人間にとって根源的なものだと思います。ライフスタイルの変化や後継者不足から、失われてしまった技術もありますが、技術が失われるということは、未来の人々から感動する機会を奪うということ。日本ならではの手仕事を、先端のテクノロジーやアイデアと組み合わせることで、手仕事を未来につなぎ、ポストグローバリズムの日本発の方向性を、世界に向けて提案できるのではないかと思うのです」。
DAY3・DAY4は「国際北陸工芸サミット」のコア期間に開催!
はたして「工芸ハッカソン」から想像を超えるクリエーションが生まれるのか?
続きは11月18日(土)、11月19日(日)に開催。19日のプレゼンテーション・公開審査会は、関係者以外も見学が可能なので、ぜひ自身の目で結果を確かめて欲しい。
なお、11月16日(木)~11月23日(木祝)は「国際北陸工芸サミット」のコア期間として、展覧会やシンポジウム、ツアーなど様々な催しが行われる。ものづくりに興味がある方は、この機会に富山を訪れてみてはいかがだろうか?
開催地:能作 2Fカンファレンスルーム(富山県高岡市オフィスパーク8-1)
日程:2017年11月19日(日)14:00〜17:00国際北陸工芸サミット「ワールド工芸100選」展
国際北陸工芸サミット「U-50国際北陸工芸アワード」における優秀な作品と、選考委員がキュレーションした作品を通して、世界の工芸の伝統とイノベーションをテーマに、世界各地の工芸の動向を紹介します。
開催地:富山県美術館(富山県富山市木場町3-20)
会期:平成29年11月16日(木)~平成30年1月8日(月・祝)
https://kogeisummit.jp
国際北陸工芸サミットシンポジウム
50才以下の工芸に携わる作家、職人、デザイナーなどの若き「工芸人」を対象としたアワード「U-50 国際北陸工芸アワード」にまつわるシンポジウム。事前申込必要。https://kogeisummit.jp
(1)基調講演及びディスカッション
ルパート・フォクナー (英国ヴィクトリア&アルバートミュージアム 日本美術担当上席学芸員)による講演「Does KOGEI have a future? 工芸に未来はあるのか」と、青柳正規(U-50 国際北陸工芸アワード選考委員長)、畠山耕治(金属作家、金沢美術工芸大学教授)、林 千晶 (ロフトワーク共同創業者)らによるディスカッション。
開催地:富山県美術館 2Fホワイエ(富山県富山市木場町3-20)
日程:2017年11月18日(土)14:30〜17:30(予定)
(2)講評会及びディスカッション
U-50 国際北陸工芸アワードの選考委員による講評会及び、石井隆一(富山県知事)、青柳正規(選考委員長)、中田英寿(選考委員)によるディスカッション。
開催地:ウイング・ウイング高岡 4Fホール(富山県高岡市末広町1-8)
日程:2017年11月23日(木祝)14:00–17:30(予定)
とやま工芸の原点・いま・未来をめぐる旅
富山県の伝統産業や工芸作家の工房・工場と、自然風土・歴史・文化を体験する8つの日帰りツアープログラム。
日程:2017年11月17日(金)、18日(土)、19日(日)、22日(水)、23日(木祝)
https://www.toyama-kogeitour.jp/
REPORT
TEXT BY AI KIYABU
PHOTOGRAPHS BY SHINGO YAMASAKI
17.10.12 THU 18:53