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高橋周也さん(左)と永松仁美さん(右)。お二人は同齢だそう。
京都のクラフト業界を牽引してきた存在
祇園の路地裏、ギャラリーやカフェが入居するモダンなビルの2階にある「昂 KYOTO」。スタイリッシュな空間に西洋アンティークと日本の作家ものが両方並びます。
店主の永松仁美さんは、京都の骨董店に生まれ、実家の手伝いや主婦を経験したのちに、2008年、古門前通に3.5坪の小さなお店をスタート。2012年、ビルのオーナーで鍵善良房の社長である今西善也さんから声がかかり、現在の場所に移転しました。
「今でこそ、クラフトのギャラリーショップはたくさんありますが、先頭で牽引してきたのは仁美さんでした。京都に生まれ育ち土地の伝統をいい形に受け継ぎながらも縛られず、周囲の人々とのお付き合いも上手でのびのびと活動されている仁美さんは、自分がギャラリーをはじめ、これからどう運営しようかという時に良い手本となりました」と高橋周也さんは語ります。
ふたりの出会いは「昂 KYOTO」で開催されていた陶芸家・余宮隆さんの展覧会に周也さんが訪れた時のこと。居合わせた共通の知り合いに、お互いを紹介してもらったそうです。
「それからというもの、YDSが展覧会を行う時は必ずコメントを添えたDMをご丁寧に送ってくださいますね。同業者同士でコミュニケーションを取り続けている稀有な存在でもあります」と永松さん。
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西村圭功の「天雲」の器に合わせ漆を意識したお菓子を、試作を繰り返しながら制作した。Kagizen Gift shopの干菓子「うつろひ」をもとに、材料に炭を使用した写真下のお菓子を「天雲」展の期間中のみ「ZEN CAFE」で販売。
コラボレーションとは違う、お誂えの文化
「昂 KYOTO」では、年間4〜5回ほど作家の展覧会を開催しています。
塗師3代目で漆器作家でもある西村圭功さんの展覧会(2016年11月25日[金]〜12月4日[日]開催)では、京漆器のテーブルウェアシリーズ「天雲」を展示しています。漆器は通常、中塗りした後、炭研ぎをして表面を磨き、それから上塗りすることでつややかな質感に仕上げますが、あえて炭研ぎの段階で止めることで、現代の食卓に似合うマットな質感を実現したシリーズです。
「天雲」シリーズは西村さんの奥様である洋子さんがディレクション・デザインを担当し、永松さんとアイデアを出し合いながら作り上げてきました。器に合わせ、鍵善良房の今西善也さんと共同制作したお菓子も1階のZEN CAFEでいただくことができます。
「漆器もお菓子もみんなで作り上げたもので、人と人が出会わなければ生まれてこなかったものです。でも、これを『コラボレーション』と呼ぶのは、点と点が結びついてその一瞬をピークに消えていくようなイメージで共感できません。京都には昔から『お誂え』という文化があります。職人と使い手が長いお付き合いの中でやりとりを重ね、高いクオリティのものを作り上げ、熟成させていく文化です。話し合って作る『お誂え』の精神こそが京都を回しているのだと思います」。
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左は滋賀の若手作家・浅井庸佑の深鉢。土と釉薬を自ら取りに行き、色と質感の美しい器を作り出す。右は1850年代のティーセット。パリにかつて存在したDELVAUX社製。
日本文化のルーツを感じるヨーロッパアンティークの魅力
お誂えの文化だからこそ、同時代の作家を重視するのは当然のこと。しかし、先人が築き上げてきたものの良さから学ぶことも、同じくらい大切なのだと永松さんは語ります。
「西欧のものには、シルクロードから伝わってきた日本文化のルーツを感じます。更紗は友禅染や西陣織、葡萄の文様はタコ唐草と、今まで見てきたものの点と点が繋がるのが面白いのです」。
特に18〜19世紀の王朝時代に作られたものは、よい素材が惜しみなく使われており職人の技術も最高峰で、「現代の作家にお見せるとよい刺激となるのです」と永松さん。
西村さんの「天雲」シリーズでも、デザイナー・猿山修さんの企画で、18世紀のピューター皿を写しが作られました。
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左上から時計回りに、ヨーロッパで買い付けたアンティークのシルバースプーン、1890年代のリモージュのデミタスカップ、高台に見所がある辻村史朗の花入、徳利、ぐいのみ、湯のみ。
手のひらサイズで細やかな装飾が施されたカップ&ソーサー、意匠を凝らした小さなティースプーン、「おケツが男前」という辻村史朗さんの作品など、お店には日常の中で愛着を持って使えそうなものが多く並びます。
「値段にはもちろんばらつきはあるけれども、高ければいいわけではありません。身の丈に合ったものを選ぶことが、長続きする秘訣です」。
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テーブル周りをコーディネートする永松さん。隣り合う器の組み合わせや植物染めのテーブルクロスの色はよく吟味され、店内の所々に新鮮な花が生けられる。
確かな技術を持つ職人や作家の作品に、使い手やデザイナーのエッセンスが加わり、新しいものが生まれる「昂 KYOTO」。モダンなスタイルの品々には、古くからの京都のものづくりの在り方が、しっかりと息づいているようです。
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展覧会の際は、作家或いはその時のテーマに合わせガラリと変化する。
次回は永松さんおすすめのお店を訪れます。お楽しみに!!
昂 KYOTO
住所:京都市東山区祇園町南側581 ZEN 2F
時間:12:00〜18:00
休廊日:月曜・火曜・不定休あり
Tel:075-525-0805
URL:http://koukyoto.com
SHOP
TEXT BY AI KIYABU
PHOTOGRAPHS BY ITO MAKOTO
16.11.30 WED 20:14