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普段使いの漆器と仏教美術、ときどき茶箱

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工芸ショップ数珠繋ぎ Vol.5「うるわし屋」
普段使いの漆器と仏教美術、ときどき茶箱

素敵な手仕事に出会える工芸ショップがたくさんある京都。この記事では、目利きの店主がいるショップを数珠繋ぎで紹介していきます。第5回目は、幾一里の店主・荒井 徹さんが「長年付き合いがあり、信頼しているお店」と、紹介してくださった「うるわし屋」です。荒井さんとともに、店主の堀内正吾さん、明美さんを訪ねました。

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左から「うるわし屋」堀内正吾さん、明美さん、「幾一里」の荒井 徹さん。

漆器の普段使いを提案する、漆器専門店としてスタート

「うるわし屋」は御所南で堀内夫妻が営む、漆器を中心としたアンティークショップです。もともと、堀内正吾さんは「ほり正」、明美さんは「うるわし屋」とそれぞれ別々の骨董店を営んでいましたが、1994年に今の場所へと移転し、一つのお店となりました。店内には、明美さんが選んだ漆器を中心に、ガラス、陶磁器、正吾さん好みの仏教美術などが並びます。

荒井:「うるわし屋」さんは、私の好みのものを多く取り扱っていらっしゃいますね。

正吾:好き嫌いの世界なので、店主の好みとお客様の好みが合うかどうかというのは重要なことです。なかでも荒井さんは古いお客さんですから、荒井さんが好きそうなものは、なんとなく分かるようになりましたよ(笑)。

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「漆器はデイリーに使えるものなのです」と明美さん。

荒井:そもそもは、もう25年以上前のこと、私がまだ数寄者だった頃に、民藝の漆絵盆や片口を求めて明美さんのうるわし屋さんを訪れたのが、初めてです。あの頃のうるわし屋さんは、漆器だけのお店でした。

明美:当時は古伊万里ブームでしたが、漆器は比較的値段が安く、手に入りやすかったのです。店名は、漆の語源「うるわし(麗し)」からとりました。

正吾:妻は「生活で使える」ということを主軸に置いて、漆器を選んでいます。ハレとケで言うと、ハレのイメージが強い漆器を普段の食卓にも取り入れようと、漆器の普及活動をし続けているんですよ。

明美:漆のものって「お正月道具」のイメージがあるでしょう? 百貨店などに行くと、わざわざ白い手袋をはめて仰々しく漆器を取り出してくれたりして……。高級で、取り扱いづらいイメージを抱いている人が少なくないんです。器屋さんに行っても、売れ筋は陶磁器で、漆器は物陰に追いやられ、埃をかぶっていたりします。でも、本当は漆器だって日常の食卓で活躍できるんです。例えば、黒の漆器に銀のスプーンを添えてみると、夏にぴったりな涼しげなイメージになり、洋食や冷製スープなんかによく合うものです。うるわし屋では、セットでそろえて置いたり、漆器にガラス皿を組み合わせてディスプレイしてみたり工夫しながら「こんな風に漆器を普段使いしませんか」と、お客様に提案しています。

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左は明治期に作られた糸目漆塗のお椀。ふたを開けると研ぎ出し蒔絵が施されており華やか。右は江戸から昭和の初めまで京都にあった高級漆器店「美濃屋」の菓子器。「美濃屋のものは派手さはないけれど、粋なんです。銀蒔絵で唐草模様が入っているのが、現代的な感覚でおしゃれでしょ」と明美さん。

正吾:私たちの店は、古いものを扱う店です。アンティークの漆器には、新しい漆器にはない魅力があります。例えば根来塗とは、まず黒い漆を塗って、その上に朱い漆を塗るのが一般的な制作方法ですが、使い込んでいくうちに朱が禿げて中の黒漆が現れる、そのコントラストが美しいのです。また、断紋と呼ばれる表面に入る亀裂さえ、骨董ではひとつの鑑賞対象として喜ばれます。

明美:今の感覚に合うような、モダンなデザインを探すのも骨董の楽しみの一つです。作家ものは、大正昭和初期の「帝国美術院展覧会(帝展)」に出展されていたような物故作家のものを主に取り扱っています。近年、作家ものの漆器は価格が高騰し、ほとんどが海外へ流出してしまうようになりました。日本人がこういったものにお金をかける習慣がないのは、少し残念ですね。

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茶箱の一例。昭和初期の網代編籠、吉田佳道作の竹の茶筅筒。象牙の茶杓。「日日」で求めたインドネシアの古布の中には竹の茶入れが入っている。1900年代のイギリスのガラス瓶は金平糖入れに。乾漆の茶碗は破損の心配がなく持ち運びに適している。

世界中の人とお茶を通して繋がれる「茶箱」

荒井:僕は骨董が趣味で、会社勤めを辞めて店を始めたのですが、趣味が仕事になってしまった今、新しい趣味を持たなければと友人にもよく言われるんです(笑)。ところで、明美さんは趣味がお煎茶でしたよね。お煎茶や抹茶の道具を集め、茶箱にまとめる遊びをしていらっしゃったところ、その茶箱が本にまとめられ出版され……新しい趣味が仕事になってしまったようですね(笑)。

明美:ありがたいことですね。現在、『茶箱遊び: 匣 筥 匳』(淡交社、2012年)と『旅する茶箱: 匣 筥 匳』(淡交社、2015年)の2冊が世に出ており、新刊も制作中です。茶箱の魅力は、旅先などに持って行って色々な場所で、お茶を飲めること。茶葉とお干菓子を持っていって、ホテルや喫茶店でお湯を貰えば、世界中どこでもお茶が入れられるのです。今まで、ニューヨークの極寒のセントラルパークや、アンコールワット近くの遺跡、マラッカ海峡の見えるところ、韓国の友人宅などで、お茶を入れて遊びました。知らない人に声をかけられてコミュニケーションするのも楽しいですよ!

正吾:集めた茶道具で茶箱を作り、一定の量が溜まったら展覧会を開きます。でも、茶箱と中身をセットで買って頂くのでなく、ひとつひとつ単品で買って頂きますので、残った道具でまた新しい茶箱を作らなければならなくなり、茶箱遊びがエンドレスになっていったというわけです。

明美:単品で買って頂く方が、お客さんが買いやすいと思って。手持ちの茶道具が1点でもあれば、それに合わせて、自分のオリジナルの茶箱が作れるでしょう。私が組んだ茶箱はあくまでも一例で、お客様にとってベストだとは限らないですから。

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「大学時代の経験が、仏教美術の世界へ入るきかっけになった」と正吾さん。

誰も気づいていない、古いものの価値を見つけ出したい

正吾:僕が取り扱うのは、主に仏教美術で、妻が扱う漆器のように生活の中で使うものではなく、置いて飾って眺めていたらそれで満足というもの。東京の大学に通っている時に、仏教美術のゼミに入っていたんです。ゼミの一環で、伊豆の古いお寺へ行って、十何体もの大きな仏さんのサイズを測って、これは平安時代のもの、こっちは鎌倉時代のものということを調査して、報告書を作ったんです。こんなにも楽しいことがあるものかというほど、その経験が体に染み付いて、仏教美術から離れられなくなったんです。大学卒業してからも新門前の骨董屋で6年間修行し、今に至るわけです。

荒井:それは興味深いですね。どんなところが面白いと思われたのですか?

正吾:仏教美術には、せっかく古くていいものなのに、誰もそのことに気がついていないことが多くあります。パッと見て「この時代のこういうものね」と見分けられるものではないんです。例えば、本当は平安・鎌倉期の仏さんなのに、江戸時代の彩色が施されていて、古く見えないことがあります。でも、僕らのように仏さんをよく見ていると、造形で「あれ、これは古いな」と気がつくわけです。そうして、彩色や後世の手の入った所を除くことによって、その仏さんを本来の姿に戻すことが出来たときは、何にも代えがたい喜びがあります。古美術や骨董の世界では、そんな場面に何度も遭遇できるのですよ。

鎌倉時代の不動明王。鍍金があまり剥がれておらず、足枘(台座との接合部)も外れていないものは貴重。

鎌倉時代の不動明王。鍍金があまり剥がれておらず、足枘(台座との接合部)も外れていないものは貴重。

お店にある品々を手に取りながら、堀内夫妻の話は尽きません。「私たちが本当に気に入ったものだけを置いているんです」と明美さん。漆器を普段使いしてみたい方、仏教美術に興味がある方、茶箱で野点デビューしたい方……。好みが合えば、どっぷりはまってしまうかもしれない「うるわし屋」ワールドを、一度覗いてみてはいかがでしょうか。

次回は堀内夫妻のオススメのお店を訪れます。お楽しみに。

うるわし屋
住所:京都市中京区丸太町通麩屋町東入ル
時間:11:00〜18:00
休廊日:火曜
Tel:075-212-0043

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TEXT BY AI KIYABU

PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO

17.10.16 MON 19:13

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