授賞式に着物で訪れた渡部さん。今回の賞を受賞し、自身がデザインした着物の制作過程に立ち会った感想を次のように話します。
「両親の影響で普段から着物を着る機会は少なくないのですが、その着物がどのようにできているのか、制作過程を見るのは初めてのことでした。細かく分かれた工程ごとに職人さんがいることを知り、驚きました。そして、職人さんと話してみると、優しくて、仕事に対する熱意が伝わってくる方ばかり。こんな風に作ってもらえるなんて、一生に一度の大きな経験だと思います」。
ユニークな発想の優秀賞にも注目
入賞・入選作品展には、渡部さんデザインの『故も知らぬ』のデザイン画と出来上がった着物の実物のほか、入賞・入選作品のデザイン画も並びました。授賞式では、入賞作品をデザインした学生がそれぞれコンセプトを語りました。
「近畿経済産業局長賞」を受賞した佐藤香穂里さんの着物『冬のある日のものがたり』は、雪に残る足跡を毛糸の編み目に見立て、さらに足跡が弧を描く様子から月の輝きを表現した作品です。「物語が生まれた時の心の温かさを毛糸で表しました。見ている周りの人々も物語に溶け込んで欲しいです」と佐藤さん。
帯『遊宴家』をデザインし、「京友禅協同組合連合会理事長賞」を受賞した藏谷凜さんは、こう説明します。「着物の堅いイメージとはまた違うデザインを考えたかった。『帯を回す』の『回す』にかけて、メリーゴーランドや観覧車をモチーフにしました」。
「京都織物卸商業組合理事長賞」を受賞した大村英晃さんの着物『Japanese. Mondrian』は、幾何学的な抽象画で知られる現代美術の巨匠ピエト・モンドリアンの作品からインスピレーションを受けたデザイン。「西洋の着物をイメージしました。奇抜な色は使わず、和紙の色を使用することで、着物の雰囲気を壊さないように気をつけました」。
ほかにも、トロピカルカクテルをイメージしたカラフルな着物や、自分が憧れる人物像を抽象的にイメージした着物、キッチュをテーマにした鮮やかな帯など、学生ならではの自由な発想が生きたデザインが見られました。
“じっくり見ること”から学ぶ
学生たちの発表の後、審査委員長で日本画家の上村淳之先生はこう語りました。
「芸術というものは、自然の形や色の美しさをじっくり見つめて知るということ。決して自分の胸中・脳裏から勝手に生まれてくるものではありません。『すべて自然の形象から学ぶ』という姿勢こそが、日本の美意識を作ってきたのだと私は思います。若い方々も、単に『デザインする』のではなく、時間をかけてじっくり見つめて、それを我がものとし、それから胸中にでてきた美しい世界を実現して欲しいと思います。着物というのは日本の豊かな伝統文化です。自分の思い描いた空間を身にまとってお披露目するというものなので、女性も男性も日常的に着物を着て、その世界を体験し『こんな着物が着てみたい』という理想を持って欲しい。そして、ここ京都が、日本文化の発信基地であることを自覚して、その発展に寄与して欲しいと考えています」。
「THE COMPE きものと帯」は、毎年11月下旬を締め切りに作品を募集し、募集期間中には、応募を希望する学生に向けて着物・帯のデザイン講座も行われます。着物・帯のデザインに関心がある、日本文化や日本画に関心がある、あるいは自分のデザインした着物・帯を身にまとってみたいという学生の皆様、今年の募集に向けて準備を始めてはいかがでしょうか?
「THE COMPE きものと帯」
主催:一般社団法人 京都産業会館
www.ksk.or.jp
OTHER
TEXT BY AI KIYABU
PHOTOGRAPHS BY MASUHIRO MASUDA
17.05.11 THU 17:40