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「クラフト × ハッカソン = クラフトソン」オープンイノベーションが産地のものづくりに新たな価値を生み出す

2回目の開催となる「クラフトソン」が夏の京丹後で開催された。今年のテーマは「丹後ちりめん」。国内最大級の絹織物の産地である京丹後地域もまた、変容する時代の流れと共に出荷額の減少、後継者不足、海外へのものづくり拠点の移設など、産業としても地域としても多くの課題を抱えている。
外部から新たな技術やアイデアを集め商品やサービスを開発していく「オープンイノベーション」という手法によって、多様化する顧客ニーズに対応していくためのアウトプットを見つけることが果たして可能か。全国から集まった20代から50代の多様な参加者たちの目に現在の産業としての丹後ちりめんはどう映るのか。夏の抜けるような青空のもと、1日目がスタートした。

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京都の職人技術を活かし、オープンイノベーションによって新たな価値を創出する「クラフト(工芸)×ハッカソン=クラフトソン」。優秀賞に選ばれたチームは、職人さんと共に実際に試作品を開発し、クラウドファンディングに掲載しテストマーケティングを実施するフェーズに進む。クラウドファンディングが成功した際には、京都市内での展示・販売(予定)に向けて実際の商品化へ向けて取り組むことができる。2017年に開催した1回目は、『京焼・清水焼』をテーマに開催された。

昭和初期に作られた織物工場鋸屋根が印象的なレトロな建物。

昭和初期に作られた織物工場。鋸屋根が印象的なレトロな建物。

 

DAY1 

長崎や岡山など、全国から集まった参加者たちを乗せたバスが与謝野町にある1つの目のリサーチ先「丹後ちりめん歴史館」に到着した。丹後ちりめん歴史館は、明治36年に国策として品質の高いシルク製品を生産するためにできた織物会社の工場の跡地にある。現在は、今井織物株式会社が織物業と観光業を融合させた地域の産業作りを目的に、織機の展示やシルク製品のショップを運営している。

 

丹後ちりめんの歴史から工程、地域の課題を丁寧に語る今井織物の今井裕二さん。

丹後ちりめんの歴史から工程、地域の課題を丁寧に語る今井織物の今井裕二さん。

「丹後地域には約1200軒の織物屋がいるが、40代・50代でも若手と言われるほど高齢化している。30代は少なく、20代の就労者はもっと少ない。このままでは産業を保つことができない。今、人手があるときになんとか食い止めたい」と地域の状況に思慮しながらも熱く話していた。丹後ちりめん歴史館でのリサーチは、参加者にとって商品開発への導入として織物を織る知識や技術だけではなく、地域の歴史や風土も一緒に学び、産業だけではなくそこに住む人々の暮らしにも目を向けることができた。

次のリサーチ先は、同じ与謝野町にあるクラフトソン協力事業者の羽賀織物さん。1952年創業の丹後ちりめんの中でも地紋を織り込む「紋織物」を生産する工房で、熟練の職人さんたちの手によって多品種小ロットの生産にも応えている。
「以前、デザイナーと商品開発の取り組みを行ったが、最終的には商品にならなかった。今回は商品化までやることになっているので、とても期待している」と羽賀信彦さん(京もの認定工芸士)。

工房の中で参加者たちに丁寧に織りの工程や紋織物について説明する羽賀さん。

工房の中で参加者たちに丁寧に織りの工程や紋織物について説明する羽賀さん。

 

参加者は再びバスに乗り、与謝野町から京丹後市の網野地区にある谷勝織物さんの工房へと移動した。谷勝織物さんは主に無地の白生地を生産する工房で、自社製撚糸を使って絹糸の撚り(より)を組み合わせ無限に生地の表情を生み出すことができる工房だ。四代目の谷口能啓さん(京もの認定工芸士)は、事業を継いで様々な取り組みにも参加していく中で、地域の取り組みとして産業を継いで行く必要性を感じていった。
「若い人は地元で仕事を探していて、研修を受けられる制度などもあるが、向き不向きもあり織り手として定着するのは難しい現状がある。丹後ちりめんの製造は、機材や販路のことがあるので新規参入がほとんど出来ない。自分たちが担い手として産業を守っていく必要があるんです」

「子供の頃はお金持ちの家扱いされたりして、儲かっていた印象があります。」と話す谷口さん。

「子供の頃はお金持ちの家扱いされたりして、儲かっていた印象があります。」と話す谷口さん。

見学を終え、クラフトソンのメイン会場でもある京都府織物・機械金属振興センター(以下、織金センター)へ。ここでは、京都府北部地域の機械金属業と織物業の技術的な支援を行っている。
参加者たちは各々に今日学んだことを反芻しながら、長くて濃い1日目が終了した。

センターの中には様々な機械や設備、生地サンプルが整っていて、新商品開発や人材育成等に利用している。

織金センターの中には様々な機械や設備、生地サンプルが整っていて、新商品開発や人材育成等に利用している。

 

DAY2

2日目は午前9時から織金センターに集合しスタートした。アイデア出し、プレゼン、チームビルディングと順に進行していき3人ずつ3つのチームに分かれて、商品開発のフェーズへと進んでいった。

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参加者から提案され、選ばれたアイデアはどれも1日で生まれたものとは思えない発想力と実現性があり、参加事業者である谷口さんも「ちりめんの良いところわるいところを考えて計画していることが嬉しい」と参加者が生地の特徴や工程を理解し寄り添っていることに関心を寄せた。一方で羽賀さんは「たくさんアイデアが出て嬉しい、可能な範囲で対応できるようにしたいなと思っている」と商品化に向けた意欲を見せていた。

伝統産業における課題を解決するためのアイデアを3日間のハッカソン形式で生み出していくこの取り組みは、一体どのような思いで運営されているのか、クラフトソンを企画した北林さんに話を聞いた。

専門的な質問を直接谷口さんに相談しながら課題を解決して行く。時折、主催者の北林さんも参加者からの相談に丁寧に応えていた。

専門的な質問を直接谷口さんに相談しながら課題を解決して行く。時折、主催者の北林さんも参加者からの相談に丁寧に応えていた。

「デザイナー先行の従来型の商品開発プログラムの成功率の低さや、肝心の職人さんの方向性やステージと合わないケースが多いのが気になっていて、なんとかしたい気持ちがありました」と話す北林さん。そんな想いから考え出されたクラフトソンの大きな特徴は、最終的に選ばれたアイデアがクラウドファンディングのMAKUAKEを通じて市場性の確認と資金調達、そしてPRが行われ、サクセスした商品はジェイアール京都伊勢丹に並ぶことが予定されており、アウトプットまでがきちんと計画の中に入っていることである。
「ハッカソン形式にすることで、多様な背景を持つ人が集まり1人では出てこなかったアイデアが出てくることが可能になります。そうすることで若手のデザイナーや興味はあるけど機会が乏しい学生や一般の方などでも職人さんと出会い、ステップアップするきっかけが生まれる。そういう場を作りたかったんです。」

どのチームも最終調整に余念がない。パワーポイントで資料を制作するチーム、イメージ動画を制作するチーム、サンプル製作にミシンを使っているチームなどプレゼンのまとめ方も三者三様だ。

どのチームも最終調整に余念がない。パワーポイントで資料を制作するチーム、イメージ動画を制作するチーム、サンプル製作にミシンを使っているチームなどプレゼンのまとめ方も三者三様だ。

 

DAY 3

3日目の朝も快晴で迎えた。今日は最終プレゼンの日だ。
審査員は、羽賀さん・谷口さんの職人2名に加え、株式会社マクアケ関西支社西日本事業部長の菊地凌輔氏、京都北都信用金庫の常勤理事で地域創生事業部長の足立渉氏、株式会社ジェイアール西日本伊勢丹婦人雑貨営業部計画担当チーフマネージャーの上田浩久氏。クラウドファンディング、銀行、百貨店と、ものづくりを売り場まで繋げるために重要な各機関の方々が集まっている。

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3チームの開発内容はそれぞれ、”チームNiNi”は「旅する羽衣」と題して携帯性が高く飛行機の中などで利用する羽織、”チームちりめん裏街道”は絹織物の弱点である黄変や織むらを生かす形でストールの開発、”チームめんめん”はちりめんの上質な肌触りからファーストちりめんとして赤ちゃんの肌着ブランドを発表した。
プレゼンが終了し、審査員の講評が始まった。「こんな短い間でここまでの開発とプレゼンができるなんて素晴らしい。羽衣伝説とかけて商品化まで頑張ってください。(足立氏)」、「伊勢丹でも商品開発に携わっているが、普段の仕事と同じテンションでプレゼンが聞けました。中身のある提案だったと思います。(上田氏)」、「地域の魅力になるアイデアばかり、マクアケで商品化に向けてサポートしたいと思った(菊池氏)」など、どのチームの発表も大好評だった。
審査の結果、”チームNiNi”の「旅する羽衣」が最優秀賞に、”チームめんめん”の「ファーストちりめん」が優秀賞に選ばれ、商品化への道が開かれた。

「嬉しいです。3日間いろんなことが知れて楽しかったですが、本当に大変なのはここからなので不安もあります。」と「旅する羽衣」を提案した金岡千賀子さん。ここからは、チームのメンバーそれぞれが住む場所もバラバラで連絡方法や進行管理、モチベーションの保ち方など商品開発に向けて様々なハードルがあることは否めない。進行していくにあたっても、主催者や参加した織物事業者にも多くの課題が山積するが、この3日間で生まれたアイデアは発見に至るプロセスも含め、地域や産業が抱える課題を「見える化」したのは間違いない。

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最後に、「現場に来てもらって、考えてくれたことがとても大事。とても良い3日間だった、遠い丹後に来てくれてありがとうございました」と羽賀織物の羽賀さんの心からの感想が印象的だった。
京都市内から車で2時間。絹織物産地として日本の着物産業を支える丹後地域にも、実際の距離以上に目に見えない乗り越えるべき壁が存在する。
ただ、今回のクラフトソンが、これから産地を支える次代の若手事業者と全国から集まった参加者との距離を縮めたのは間違いない。

 

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TEXT BY SHINGO YAMASAKI

PHOTOGRAPHS BY SHINGO YAMASAKI

18.08.28 TUE 20:22

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