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まず伺ったのは、型染めの柄に使う色を作るところ。
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片手鍋の中に入っている色が原色。原色を薄めたり、黒を入れて渋くしたりと、組み合わせて色を作る。
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鍋で沸かしたお湯の中に、生地を入れて蒸す。そうして発色・定着させることで色の確認をする。
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どの色を何g入れるかなど、色を作るためのレシピは無い。自分たちの感覚で水を入れて薄めたり。色を入れて濃度を高くしたり。
ーなぜ毎回色を作っているんですか。
前田:毎回作るのが前仁のやり方です。色見本に沿って調合しますが、100パーセント一緒ということはないので、その時に作る色によって出方が違う。一点一点が唯一無二の商品です。
ー色にはこだわってらっしゃるんですか。
前田:ここまで色にこだわって、多くの色を用いるというのはなかなかない。いろんな色を組み合わせられるところが、型染めのストロングポイントですね。
ー前仁さんらしさは色の多さですか?
前田:この色の多さと、代々受け継いでいる柄です。柄は、他社さんが見て真似しようと思ってもできない。何通りもの型が重なって一つの柄ができるので。似たような柄もあるけど、それも全く同じではないし。柄と、色と、この型紙が何十年と続いているので。
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工房のビルが建ったのと同時期ぐらいの、40年ほど前から使っている柄も。
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型紙の枚数は、色数×濃淡で決まる。
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昔は5-10枚までだったが、一箇所だけで36枚ほどの型を使う柄も。
ーいつから家業をやってらっしゃるんですか。
前田:入ってから5年目なので、4年前から。大学卒業後、社会勉強として一般企業で5年務めて福祉用具の営業をしてました。継ぐことを考えないで、自分のやりたいことを見つけて就職しなさいと言われていたので。おじいちゃん、おばあちゃんと喋るのが好きだったから、営業の仕事に就きました。
ーなんでそこから家業を継ぐことに?何か転機があったんですか?
前田:入る前の年の夏ぐらいに、父親と喫茶店で二人きりになる時間があって。来年からどうだ?と言われました。
ーそれを聞いた時は?
前田:できるかなあと言っていました。工場と実家は別で、職場はあんまり訪問したことがなかったので、どういう仕事をしているかは知らなかった。何もわからないままホントにゼロからのスタートでした。
ーお父さんやおじいちゃんから、仕事の内容を伺っていたんですか。
前田:あんまりなかったですね。着物を染めるぐらいしか知らなかったです。小さい時に職人さんと会ったぐらいで。
ー福祉関係の営業という一般企業で働かれるのと、家業である伝統工芸のお仕事では、結構違いましたか。
前田:そもそも職人と営業は、職種が全然違いますね。でも、営業先を回ったり、おじいちゃんおばあちゃんと喋ったりもよかった。それがこの仕事をやっていても外に出た時につながるかもしれない。喋るのが好きで、人と喋らんと無理なんですよね(笑)。
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隣の部屋に移動し、全長13mもの生地を染めている作業場へ。
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糊置きは、柄の輪郭になる一番大事なもの。柄の色が隣の色に染みてしまうのを防ぐ役割も。
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近くでよく見てみると、友禅糊で柄の輪郭部分が描かれているのがわかる。
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糊置きには、柄を染める時のように糊置き専用の型を使う。
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糊を置いて使い終わった型はすぐに洗う。型の線のところに糊が残ってしまうと、詰まった糊が邪魔して柄が描けなくなってしまうため。
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続いて、前田さんが型摺り染めをされている部屋へ。全長7mもの板を上げ下げするのは、結構力がいるそう。
ー今、家業を継いでみてどうですか?
前田:面白いですね。やっぱり綺麗な商品を色合わせから最終まで作っているので、出来上がった時に感動します。「これだけのものを作れてるんやな」とか。「うわ、すごいな」というね。色鮮やかなものを作っているので、出来上がりを見るのが自分は好きですし、やっていて楽しいです。
ー家業の道に入られる前に、手仕事のような、作ることとかは何かされていたんですか。
前田:なかったですね。不器用なもので。
ー作った時の達成感を感じられると伺ったので、今まで何か経験があるのかと思ってました!
前田:最初に輪郭を書いて、色が入っていくとだんだん隙間が埋まっていくでしょ。僕は昔からそれが好きみたいで。色塗りでも、だんだん埋まっていって、空白がなくなっていくのが楽しかった記憶があるので、そういう感覚なのかもしれません。
ーじゃあ、型染め更紗をされていてワクワクする瞬間って、出来上がっていく感じや、埋まっていく感じですか?
前田:空間が埋まる感じや、仕上がりを見た時の鮮やかやなあっていう感じですね。何回も作っている商品ならリピートになるので、だいたいこうなるだろうという想像はできるんですけど、見るたびに「ああいいなあ」と感じます。
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しゃれ着のように。そしてカジュアルからフォーマルまで、洋服のように。そんなコーディネートができるのが、前仁の着物の特徴。
ーパッとできないですもんね。いろんな工程を経て。
前田:徐々にやっていくのが自分には合ってるんですかね。 型染めっていうのが、もしかしたらマッチしてたのかもしれませんね。
ー家業で、自分の好きなところとマッチしているところがあるってすごいですね!
前田:そうですね。まだ丸四年しかやってないですけど、全然嫌だと思ったことないですね。
ーそこで、家業を継がれることに抵抗はなかったんですね。家業だからって感じで?
前田:まあでも、そんなんできるんかなあって不安ですよ。大学も文学部なので、美術系に行ってたわけじゃないですし。特段絵がうまかったとかでもないし。本当に、ゼロからのスタートでやってました。今になってもできることはちょっとづつで、一気にいきなりはできないですね。
ー4年って、全部一人で最後までできるというわけではないんですか?
前田:ないですね。もちろん優れた人はできるかもしれないけど。まずは一つずつ、色合わせから職人さんの後についてみたり、真似したりとか。練習から入って実際に生地をやらせてもらったりとか。
一つずつ覚えていくことで、お客さんと話しても、こういう風にやるんですよって実体験が喋れるので、それは大きいですよね。ほんとに一つ一つ、全く機械を使わない中で人の手でやっているので。そういう実体験を伝えられます。
ーそういう実体験からのお話を職人さんから聞くと、同じものでも感動が違いますよね。
前田:「すごいな、気が遠くなるな」「私やったら無理やわあ」と言ってくださいますね。そんなん聞くと、やってる身からしたら嬉しいですよね。
ーやりがいを感じるのは、やっぱりお客さんとお話されたときですか?
前田:そういう反応を伺ったときですね。今は工房に居るので皆さんと会えないですけど、ゆくゆくは前に立って、お客さんとお話して接客しないといけない時期も来ると思うんで。
ーじゃあ、伝統産業ミュージアムの実演って結構良い機会だったりするんですか?
前田:そうですね、結構楽しいです。やっぱりみなさん興味持って寄ってきてくださるので。出来栄えはどうかとして、やってるのを見てもらったり、ちょっと喋ったりするのは楽しい時間ではあるかもしれませんね。
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階段を上がって、引染めの作業場へ。
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前仁さんでは、下染の段階から始めて、その上から柄を型で染めていく。下から追いかけてくる色によって、この色が混じってくる。そうすると唯一無二のなんとも言えない色が出てくるそう!
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染める時は、刷毛を使って、職人さんの手で一枚ずつ。
ー作っていて、家族を感じる時はありますか?お父さんがこれやってたんだとか。
前田:おじいちゃんがやっていた時の写真を見ると思います。一緒にやりたかったですけど、就職する前におじいちゃんは亡くなってしまったから。実際ここに居てやっていたわけだから、僕と、父親と、おじいちゃんと、3世代揃ったら面白かったなというのはありますね。
ー教えてもらう時は、お父さんと一緒にやられてるんですか?
前田:色合わせや型紙の準備等は、もう退社された職人さんから教えてもらいました。父親からは、商品の検品や全体的な業務的な話をしてもらいます。
ー一緒にやったこととかはないんですか?
前田:ほとんどないですね。実演をやっている姿をちょっと見ることはありますけど。父親は仕事に対しては厳しいです。僕がやった作品を見て、「甘いな」、「まだまだ全然や」と言われます。それも怒られているというよりは、指導ですね。
みんな言わはるのが、「伝統産業を絶やすのがもったいない」というかね。これだけ100年近く続いているから、なんとか残したいという想いが父親にも僕にもあるので。やれるかは別にしてやらないといけないですけどね。
ー剛志さんのご年齢や立場だからこそ、やってみたいこととかってありますか?
前田:同年代の友達にも、こういう仕事をしているよというのは口頭では言えるけど、実際の職場は見てもらったことがない。みやこめっせで出会って、こうやって田中さんに来てもらっているから、こういう若い人に工房見学してもらう機会は増やしたいです。
僕は、前仁の工房はオープンにしてもいいんじゃないかと思います。見学会だけでも、興味のある人がいたら募って、見てもらいたいという想いはあるかな。
前田剛志さん
・お休みの日にすること
買い物やドライブ、テニスもテニス仲間とされています。
・好きな歌手
嵐とback number。back numberはファンクラブに入るくらい好き。
・最近テンションが上がったこと
昨年の2月に結婚したこと。奥さんもこのお仕事はすごいと言ってくださっている。
前田仁仙
住所:〒600-8446 京都市下京区高辻通西洞院東入堀之内町263番地1
ホームページ:https://jinsen.co.jp/
Instagram: @maedajinsen
https://www.instagram.com/maedajinsen/
INTERVIEW
TEXT BY MIYU TANAKA
PHOTOGRAPHS BY SHINGO YAMASAKI
23.01.19 THU 09:55