KOUGEI NOW 2019
Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE”
「未来志向のものづくり」を意識した作品やプロダクトが並ぶ展示販売会。
2019年3月7日(木)、8日(金)、9日(土)、「親密な工芸」をテーマに、ホテルカンラ京都にて開催。うなぎの寝床、ystudio、花背 WARA、ginger、壜壥、南條工房、RAKUKEI、蘇嶐窯、ケイコロール、orit.、POLSほか、約70組が参加する。
3月7日(木)16:30〜18:00には福田春美 × 鈴木修司のトークイベントも開催。http://kougeinow.com/
バイヤー 1976年三重県松阪市生まれ。1998年にビームス入社。メンズ重衣料からメンズカジュアルウェア、そしてfennicaの前身であるBEAMS MODERN LIVING”の店舗スタッフ、その後にfennicaのMD、 B:MING by BEAMSのバイヤーを担当、現在はBEAMS JAPANのバイヤーに従事する。
https://www.beams.co.jp/staff/1070/
1991年京都市左京区花背生まれ。2010年より地元・花背のお年寄りの方にわら細工を習いはじめ、2013年花背WARAをスタート。2014年京都市立芸術大学美術学部美術科版画専攻卒業。現在もお年寄りの藁細工の技術習得、稲作指導のもと、常に藁の可能性を探り、制作している。
http://hanasewara.com
下鴨神社や銀閣寺など京都を代表する寺社仏閣が点在する京都市左京区。学生の街としても知られている華やかなイメージを持つが、同じ左京区でも花背はそれとはまったく異なる。バスも1日に数本しか通わず、近くのコンビニまで車で約30分はかかる山里の町。平安時代以降は、天皇の御領地になり文人墨客の避暑地として愛されていたというのも頷ける、豊かな自然が今も残る。
この場所で藁を使ったアクセサリーを制作しているのが、「花背WARA」の藤井桃子さん。DIALOGUEキュレーターの藤井昌弘さんの案内のもと、BEAMS JAPANのバイヤー鈴木修司さんと工房を訪ね、制作風景を見せてもらった。
「20代そこそこの若い子がよく藁細工をやろうと思いましたね(鈴木)」。
藁のアクセサリーを眺めながら発した一言から、感心しているのが伝わってきた。日本全国を訪ね、民芸や伝統工芸の現場を見てきた鈴木さん。BEAMS JAPANでしめ縄の受注販売も行っており、宮崎県高千穂や熊本県天草など藁細工が盛んな地域にも通っているため、若い担い手がいない現状もよく知っている。
藤井さんが「花背WARA」として活動をスタートしたのは2013年。大学を卒業するタイミングだった。
「2010年に京都市立芸術大学へ入学したのですが、1回生のときは専攻が決まっていなくて、何か学びたい思った時に、地元の花背で昔からある藁細工に目がついたんです。最初は軽い気持ちで習いはじめました。(藤井)」
近所のおじいさん、おばあさんから教えを受け、基本となる縄を綯えるところから始めた。1本の藁縄をうまく綯えられるようになるまでに、半年以上かかったという。
「アクセサリーにしよと思いついたのは藁細工を習い始めてすぐでした。もともとアクセサリーが好きなので、身につけられるものができたら面白いと思ったんです(藤井)」
藁細工は縄文時代から続く、日本人の暮らしに密接している文化の一つ。しかし、今は日々の生活の中で蓑も草鞋も実際に触れることは難しい。ここ数十年で藁細工と日本の暮らしの距離は離れてしまった。
「藁細工といえば、しめ縄や鍋敷き、草履、円座など、昔では生活をより豊かにするために、自らの手であみ出し、日常の生活用具として身近な存在でした。昔の生活用具のように、アクセサリーにすることで、一般向けの藁細工として日常的に使ってもらえる。藁のアクセサリーを通して、藁細工に興味を持ってくださる方が増えたら嬉しいですね。(藤井)」
昔ながらの技法にこだわる藤井さん。伝統的な技法の中にアクセサリーとしての美しさを表現するため、京都の西陣織の絹糸、淡水パール、スワルフスキーなど、藁の魅力を引き立てる異素材を組み合わせる新しい試みに挑戦。温故知新の藤井さんのアクセサリーは、ジュエリーという言い方のほうがふさわしいほど美しい。
藤井さんはアクセサリーにとどまらず、神社のしめ縄や祭りの草履なども制作している。
自分で調べて藁細工仲間のネットワークを広げ、学びたいと思う人がいれば、日本各地へ習いに行く。教えていただけるのは80歳以上のご高齢の方が多いため、時間にもあまり余裕がないのが現実だ。
藁のアクセサリーの種類はピアス、ネックレッス、ブレスレッド、ブローチ、指輪など幅広い。どれも伝統的な藁細工の技法で作られており、しめ縄など伝統的な形のものと、藤井さんがデザインするコンテンポラリーな形のものがある。どの作品にも共通しているのは、昔ながらの藁細工の佇まいから感じるスタイリッシュさ。藁の美さが丁寧な編み方でより洗練させている。他のアクセサリー素材にはない、見ているだけで心が落ち着く感覚を覚えるのは、日本人だからかもしれない。
工房に並ぶ作品を一つ一つ見て、気になったものを手に取る鈴木さん。質感や重さ、編みの細かさを触れることで感じ、作る人の思いに寄り添っていく。さらにしめ縄の形を模したブローチを、自分のキャップにつけ、身につけた時の美しさやコーディネートとしての見え方を体感。女性用という概念に捉われず、一つの作品としてフラットに見ている視点に気づかされます。
「例えば、家にしめ飾りをつけるように、お正月は自分に付けるしめ縄のブローチを作ってみたらどうですか。お正月が終わったら氏神さんへ家に飾っているしめ縄と一緒に納めてもいい。BEAMSのスタッフがお正月期間中は販売員全員がしめ飾りのピンバッチをつけていてもおもしろいですね。毎年新調するものとして、藁細工がある暮らしは新しいし、僕だったら欲しいです。(鈴木)」
見て、触れて、感じた先に浮かんだアイデアは、日本の伝統を重んじながら暮らしの中に取り入れる新しい形。藤井さんが作る作品の考え方にぴったり寄り添っている。
使う素材は花背にある田んぼで自ら育てた藁と、田んぼのあぜ道などに生えているシバクサという野草。1本1本太さや汚れがないかを見極めながら形としての美しさを追求している。
「シンプルだけれど綺麗なしずく型の形成が一番難しいですね。小さいものですが、力を目一杯入れて作らないと隙間ができてしまうので、しめ縄を作るときと変わらないくらいの力加減で作っています。(藤井)」
しずく型のピアスはなべしき、リーフ柄のブローチは草鞋の技法と同じ。大きな藁細工は藁を足に引っ掛け作るが、足の代わりに引っ掛ける道具を自分で作り、隙間がないように手で編んでいく。
「藁をアクセサリーにするという発想がすごいですね。身につけられるのがいい。工芸品は用途もさまざま。専門性や価格が高いものもあるので、自分の趣味や生活にちょっと背伸びして届くものを選ぶのがいいと思います。自分の身の回りで使えそうなものを、まずは深く重く考えずに買って使ってみることで、ものを大事にする感覚が身につくと思うんです。(鈴木)」
工房から車で10分ほどのところにある、藤田さんの田んぼを案内してもらった。
藤田さんの制作は、原材料の藁作りから始まっている。5月の田植えからはじまり、10月末に稲刈りをする。刈り取った稲は1週間天日干し。その後脱穀をしてゴミなどを取り除く掃除をし、再び天日干しをしてからようやくアクセサリーの制作がはじまる。
「作っているのは稲の長さが長いアサヒモチという品種です。なかなか作品として使えるいい藁がなくて、藁作りからはじめました。管理をするのは大変ですが、おばあさんや親戚に手伝ってもらいながらやっています。最近藁細工の技術伝承者に認定されている荒川師匠に藁を送ったら、こんな美しい藁は見たことがないと絶賛されました。私の自慢の藁です。(藤井)」
藤井さんが作る美しいアクセサリーには、藁作りは欠かせない。その手間ひまとこだわりが、アクセサリーの魅力に反映しているのは言うまでもない。
「土地土地を訪ねることが好きなので、僕の考え方としては東京で全部みせたくないんです。BEAMS JAPANのお店は一部を見せる場所。興味を持っていただく入り口的な役割です。気に入ったものが見つかれば自分で産地へ行ってほしい。ものが生まれるストーリーに触れるに行く、作家さんに会いに行く、そういう行動が生まれる場所を目指しています。藤井さんのアクセサリーをHPで見たときは、まさか藁から作っているなんて思いもしませんでした。京都の町屋の工房で制作をしているのかと思いきや、大したものです。藤井さんの作品は、この環境じゃないとぜったい作れないですよね。(鈴木)」
アクセサリーを見るだけでは伝わってこない、ものづくりの背景にあるストーリー。歴史の中で培われた文化がこもっているものの美しさや、その土地だからこそ生まれるものがあることを教えてくれた。
OTHER
TEXT BY YUKI NISHIKAWA
PHOTOGRAPHS BY YOSHIROU MASUDA
19.01.07 MON 10:00