友田多紀/陶芸作家
1981年生まれ、大阪出身。2010年に京都府立陶工高等技術専門校図案科を卒業後、5年間、東山清水焼窯元にて絵付け職人として従事。2016年京都府立陶工高等技術専門校成形科卒業。現在、自宅兼工房にて、陶を中心とした作品づくりに取り組む。
ごはん茶碗展
2017年10月14日(土)~10月22日(日)、ギャラリーYDS(二条新町)内のスペース「時無草」にて開催。「どんなごはん茶碗が欲しいか」様々な分野で活躍する人12名にインタビューし、彼ら好みのごはん茶碗を制作した。会期中は、それらの茶碗を使って卵かけ御飯を食べるイベントも行った。
―今回が初めての個展なんですね。どんな経緯で行うことになったのでしょうか?
友田:ギャラリーYDS(以下YDS)の展覧会に、アルバイトスタッフとして関わったのがそもそものきっかけです。YDSは陶芸作家の展覧会を多く行うので、搬入等を手伝いながら、作品に多く触れる機会を得ました。2年前、尾形アツシさんの展覧会を行った時は、中庭に陶土を敷き詰めるインスタレーションを行ったのですが、その土を掘りに行く時も同行させていただいたものです。
実は、時無草の壁には尾形さんの展示の時に使った土が混ざっていて、だから少し生成りっぽい色をしているのですが、この壁を塗るのもお手伝いしました。そのご縁で、時無草が出来上がった時、ここで個展を行うことを店主の高橋周也さんに提案してもらったのです。
―いろんな方に「どんなごはん茶碗を使ってみたいか」をインタビューして、その人のための茶碗を制作されましたね。このコンセプトはどのように思いついたのでしょうか?
友田:最初は、ただ単にごはん茶碗の展覧会をやろうと思っていたのです。でもそれを周也さんに話したら、同時期に1階で超人気作家・小嶋亜創さんの展覧会をやることが決まっていたので「やばいよ、比べられちゃうよ!」と言われ……苦笑。相談しながら、今回のコンセプトを考えていったのです。インタビューに答えていただく方も、YDSのお客様などから、このお題に面白い答えを出してくれそうな方、私が今後知り合っておくと良さそうな方を、周也さんが繋いでくださって。結果、新しいことに挑戦し、素敵な方々と出会う良い機会となりました。
―みなさん、どんな「ごはん茶碗」をオーダーされたのですか?
友田:「ごはん茶碗」は人それぞれ、ごはんを食べるスタイルによって、違ったこだわりがあるものです。今回、12人にインタビューし18個のごはん茶碗を作ったのですが、周也さんと茶人のPeruさんの好みが似ていたことを除き、すべてまったく違ったオーダーでした。
例えば、料理旅館「井筒安」の7代目当主、安次郎さんが希望されたのは、どんぶりのように大きめの茶碗。お客様の料理や、スタッフさんのまかないの準備などで忙しい安次郎さんは、その日の状況によって、食べるご飯の量が変わるそうです。だから、「大は小を兼ねる」ということで、時間があるときは多め、時間がない時は少なめでと調整できる大きさのものをご所望されたのです。
―インタビューした方のご家族の分も作られたのですか?
友田:安次郎さんの時は奥様と、10歳、6歳、4歳のお子様分も作りました。すべて染付で植物模様の器で大きさが異なります。野菜の販売会社「坂ノ途中」の小野邦彦さんへも、インタビューの際、奥様が私の世話をよく焼いてくださったので、奥様の分もペアで作らせていただきました。
この小野夫婦のための茶碗は、展示を見に来てくださった方から一番人気が高いようです。オーダーは「卵かけ御飯を包み込むような形」というもので、普通の人が使うごはん茶碗に近いからかもしれません。絵柄は私の過去の作品から、ご夫婦の好きな柄を選んでもらったり、似合うと思う柄を私が選びました。無農薬、有機栽培の野菜を扱う会社なので、真っ白ではなく、こういう自然な色に仕上げました。
―編集・著述家の沢田眉香子さんのために作った茶碗は、変わった形をしています。
友田:沢田さんはインタビューの時に、好きな茶碗を見本に持ってきてくださって、それがこんな歪んだ形をしていたのです。沢田さんは、あまりカチッとしているものではなくて、リラックスできるものが良いと仰いました。持って来てくださった茶碗は、ある陶芸家さんのB品だそうで、気負いなく使えること、高台の角が丸くなっていて洗う時にガサガサ引っかからないところが気に入っているということでした。私が今まで働いてきた清水焼という分野では、常にきっちりとした形の器が求められてきたので、そんな器は作ったことがなかったんです。なので、「歪んでいるのがいいんだ」と。ルールとは逆のことをするのが新鮮で、実際歪ませる瞬間は快感でした。釉薬も松灰釉という自然の釉薬を使って、焼き方も匣鉢焼成という初めての技術に挑戦し、ナチュラル感を出しました。新しいステップに踏み出す、きっかけを与えてくれた作品です。
―一番難しかったオーダーは?
友田:陶々舎の茶人、天江大陸さんのオーダーですね。インタビューに伺った時、「茶飯釜」という、一客一亭の茶懐石の時に使用する釜を見せて頂きました。その釜はお茶を点てる時にも、ごはんを炊く時にも使う、「一人二役」の釜なのだそうです。今回作るごはん茶碗も、抹茶をいただく時もごはんをいただく時にも使える「一人二役」のものが欲しいということでした。さらに「天目台」というお抹茶碗の受け皿となるものに、ぴったりはまるものが良いと。形は天目じゃなくてもいいし、なんでもいいとおっしゃったのですが、もう一つリクエストがあって、茶碗の底に魚を描いて欲しいというのです。釣りをしていて、釣れるかもしれんという時のワクワク感を表現したいと。初めてのリクエストが多くて、デザインを決めるのが難しかったです。
―友田さんご自身のお母さんのために作られた茶碗もあるのですね。
友田:いろんな方にインタビューしてきましたが、一番厳しかったのは私の母です。まず、飯碗としては小さなこのサイズ感ですが、「ハスの花が咲くくらいの、まだ咲いてないけど、開いてきたぞ」という時の形がいいと言うのです。ハスの花を見て感動したんだと思うんですけど、その加減が難しかったです。柄も藤の花を逆さまに描いて欲しい、しかも、茶碗の内側に花が垂れているようにと。一つ目を作ったら、イメージじゃないと言われ、二つ目も薄すぎてダメで、三つ目もダメ出しされて(笑)。ここに展示しているものでも、まだ母は納得がいっていないので、作り直さなければいけないんです。
―いろんな人に出会い、それぞれのオーダーに応えた本展。どんな学びを得ましたか?
友田:自分一人では思いつかなかったことに挑戦できたのが良かったです。カチッとした京焼の範囲にとどまらない、ざらっとした土感のあるものや、古めかしい風合いが出る自然の釉薬を使うことに挑戦し、技術の幅も広がりました。今までにないアイデアも思いつくようになり、今後はいわゆる京焼の質感とは違う生地に京焼の模様が入れる作品に挑戦してみたいと思っています。
なお、展示したごはん茶碗は、インタビューした方々にプレゼントするとのこと。「使っていただいて、感想をもらうのが楽しみです」と友田さん。
今回展示したごはん茶碗は、プレゼントする人の生活スタイルに合ったものを作り、その人を喜ばせるというミッションから生まれたもので、作家としての自己表現からは程遠いものであったかもしれない。しかし、一つひとつの茶碗たちを見ていくと、それぞれ個性が豊かで興味深いものばかりだ。創造性とは、作家一人のなかから湧き出てくるものばかりでは決してなく、あらゆる人との関わり合いの中でこそ面白いものが生まれるのだと、気づかされた展覧会だった。
友田多紀 URL:http://ateliertaki.blog.fc2.com/
ギャラリーYDS URL:http://www.takahashitoku.com/
REPORT
TEXT BY AI KIYABU
PHOTOGRAPHS BY MAKOTO ITO
17.11.27 MON 17:32