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INTERVIEW

波佐見焼のマルヒロが京都へ! その背景にある想いとは?

波佐見を牽引する存在として注目を集める波佐見焼の陶磁器メーカー「有限会社マルヒロ」。2017年、東京・原宿、京都・祇園にて、マルヒロ初のポップアップストア&展覧会イベントを開催。11月に開催する京都編では、マルヒロの多彩な商品に加えて、京都のグラフィックデザイナー三重野龍をはじめとする、様々なクリエイターとのアート作品も発表される。ブランドマネージャー・馬場匡平と、京都から波佐見町を訪ねた三重野龍にそれぞれ話を聞いた。

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馬場匡平/「有限会社マルヒロ」ブランドマネージャー
昭和32年に露天商として始まった陶磁器メーカー「有限会社マルヒロ」の長男として1985年に生まれる。地元を離れ大阪などで働いた後、マルヒロに入社。

MARUHIRO POP UP STORE & EXHIBITION in KYOTO
2017年11月23日(木・祝)~26日(日)、ASPHODEL(祇園)にて開催。気鋭のクリエイターとコラボレーションした新商品を含む、自社ブランドの商品250種類以上を展示販売するほか、ユニークなアート作品の展示や、大人も子どもも楽しめるワークショプを開催。会場には福岡のコーヒーショップ「manu coffee」も出店する。

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コラボレーションにあたり、2017年8月に三重野龍が波佐見町を訪れた。工房を回り、波佐見焼が作られる過程を見学した。

ーまずは、馬場さんへ質問です。「ポップアップストア&展覧会イベント」を開催しようと思ったきっかけはなんでしょう。

 馬場:僕らが見本市に出品したのは、東京ビッグサイトで行われた2010年の『インテリアライフスタイル展』がはじめてでした。その頃は、会場に何百という出展ブースがある中で、焼き物関係者ってうちも含めて10社もない状態で。ところが、今では焼き物のブースがすごく増えています。差別化が難しい状況になってきたんですね。もうひとつは、他にも多くの展示会には出展してきましたけど、与えられたブースとそのパッケージ内でしかマルヒロの商品を展開できないことにジレンマも感じはじめていて。マルヒロの世界観をきちんと伝えるためには、自分たちで身銭を切って、単独でやっていくほうが性にあってるんじゃないかなと。

―その開催場所として、東京を選ぶのは当然だと思いますが、京都でも開催されるのはどうしてなんでしょう。

 馬場:僕らの産地は分業で、実際に手を動かしてるのはおっちゃんおばちゃん達なんですよ。だから、マルヒロの展示会を京都でやるよっていえば、「京都かぁ、それはよかね、楽しそうね」って、おっちゃんおばちゃん達も気持ちが上がるんですよ。現場にいるおっちゃんおばちゃん達のテンションひとつで、でき上がる物も変わってきますけんね。やっぱり京都ってよか題材ですよ。

―波佐見で手を動かす人たちにとっても、京都であればひとつの目標になるんですね。京都の清水焼のことは意識されましたか。

 馬場:波佐見の隣りにも有田焼があって、僕らからすれば清水、有田、伊万里、九谷というのは、高級な工芸品という分類だと思っとるんです。波佐見は400年間、日常品をつくってきた町なので、その日常品を京都で見てもらう機会をつくるのは、むしろ、面白いよねという思いもあるとですよ。最近の京都は、若くて面白い人たちが増えてきてるという印象もあるから、そういった京都の若い人たちにもマルヒロの商品を見てほしいという気持ちもありますね。

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型屋「喜久美成型」の岩永喜久美さん。マルヒロでは、自社の企画商品を、波佐見町の職人たちと協働しながら作り上げていく。

―今回の「ポップアップストア&展覧会イベント」には多彩な若手アーティストも参加しています。

 馬場:ほとんど、もともとの友人たちです。今は伝統産業が結構フィーチャーされて、有名なデザイナーやインテリアデザイナーと一緒にやってるところが多いじゃないですか。ですけど、僕は「このデザインよかね」と思っても、知らんひとにメールして、仕事の前提で会いに行くってのは基本やれない人間なので。それよりは、「かっちょよかねぇ、こいつは」って思う友だちにお願いしたい。そこは、僕の一番の特権を使わせてもらってます。だから今回は、裏テーマがなかよし展で(笑)。

―実際、多くの産地が一部の有名デザイナーをとりあっているような状況ですから、あえての「なかよし展」というやり方を貫くのは新鮮です。

 馬場:ひとつ模範にしているとすれば、少し前のアメリカで、バリー・マッギーやトミー・ゲレロといった、スケボーばしながら絵を描いてる人たちがフィーチャーされて、アディダスとかの大きな企業と組んでましたよね。自分たちの毛色を出すには、そっちのやり方かなと思ってます。今回、お願いしたアーティストでいえば、竹内俊太郎くんは、僕がはじめて東京で仲良くなった友達。関祐介さんは、マルヒロが参加した展示会でかっこいい内装デザインを手がけていた人ですけど、そこで、関さんが僕にしゃべりかけてきたんですよ。「そのTシャツ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンでしょ」って。

 ―馬場さんはそんなTシャツで展示会に参加されてたんですね。

 馬場:だけど、展示会の会場でそこに反応する人はまずいなくて。そうやって仲良くなって、一緒に遊んで今にいたるので、マルヒロが単独で展示会をするんだったら、まずは一番仲よか人らをフィーチャーしたいっていうのがはじまりですね。
三重野龍くん、矢津吉隆さんは、京都を拠点に活動するアーティストとして紹介してもらったところからのつきあいですけど、龍くんと話してたら、結局、たどっていけば僕らの友達とも繋がっていました。

 ―そんなアーティストたちに声をかけて、そばちょこのデザインや、人の形をした花瓶の制作を手がけてもらったものを、今回は展示するということですね。

 馬場:そうですね。それぞれのアイテムでルールは決めているんですけど、あとは、もう丸投げです(笑)。修正とかは一切しない。お願いした人たちは、自分で手を動かしたり、「こういうことしたら楽しいよね」というのがある人たちだから、もう、おまかせしてるんです。

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陶郷中尾山から見た波佐見町の風景。

―そうしたアーティストの共同作品の他にも、ポップアップストアにはマルヒロのさまざまな商品も並びます。

馬場:うちの商品はめちゃくちゃ多くて、そばちょこだけでも130種類くらいあります。それらを、ある程度は京都へ持っていくので、波佐見焼にはここまでの振り幅があるというのを見てもらいたかですね。

―いずれは、マルヒロのオンリーショップを各地につくっていくつもりですか。

馬場:それよりも地元の子ども達が産業に興味を持ってくれるような取り組みをやりたいんです。僕ら、波佐見に1180坪という大きな土地を買ったんですよ。そこに公園をつくりたいと思ってます。型屋さん、生地屋さんの現場も公園にあって、子どもたちが自由に遊べる場所にして。職人のおっちゃんたちがいつもそこで作業をしてることで、防犯にもつながりますから。

―産地の現場が見える公園、すごくいいアイデアですね!

馬場:工場見学をして、カフェがあって、最後に自分たちの商品を売りますというのは、もういっぱいあるじゃなかですか。僕らの世代ができるのは、自分が子どもの頃にはなかったものを町につくって、ライブとかもできれば、地元の文化も変わってくるんじゃないかな。それを見た子どもたちが「かっちょよかね」って、波佐見焼にも興味を持って入ってきてくれたらいいなと思っとります。

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三重野 龍/グラフィックデザイナー
1988年兵庫県生まれ。2011年京都精華大学グラフィックデザインコース卒業。大学卒業後、京都にてフリーのデザイナーとして活動開始。今回の「MARUHIRO POP UP STORE & EXHIBITION in KYOTO」では「そばちょこ」とアート作品「フェイスカビン」を制作する。 http://mieno-ryu.com/

 

―つづいて、三重野さんにお聞きします。実際に波佐見焼の現場を訪ねてみてどんな感想を持ちましたか。

 三重野:やっぱり土地のパワーがすごくあるなぁと思いました。他の産地を知らないので比較できませんし、波佐見も全盛期より人が減っているそうなんですが、それでも、全行程でしっかり人の手が入って、手間もかかることを町という集合体でずっとやってきてるのは、やっぱりすごいことやなと。自分の場合は、転勤族だったので、地元といえる場所がなくて、地域でまとまって何かやってる姿には憧れます。

 ―馬場さんの丸投げスタイルもなんだか新鮮ですね。

三重野:これだけ好きにやらせてもらうこともないので、やれることはなんでもやりたいってテンションになりました。(馬場)匡平さんがすごいのは、「自分は何もしてなくて、みんなとおしゃべりしてるだけ」って言うんですけど、自分たちの世代や、地域にあるカルチャー、ノリを大事にしながら、自分たちが面白いと思えることをやっていて、しかも、その楽しみを各工程の職人さんたちとも共有してること。みんなで遊ぼうよというテンションを、代表自ら実践してるんですね。匡平さんのような兄ちゃんが近所におったらええなぁと思いました。

 ―なかよしとか遊びというと誤解もされそうですけど、狭い内輪ノリじゃなくて、広く遊んで、面白がっているんですね。

三重野:実際、匡平さんが出したラフスケッチを、職人さんたちが自分のよいと思う方向に少し変えてきたりもするそうで、みんなが積極的に面白がってるんだと思います。

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三重野さんに「そばちょこ」に施すことができる加飾について説明する馬場さん。

―最終的には三重野さんの作品はどんなものになったのでしょう。

 三重野:匡平さんと飲みながら話してるときに、「耳なし芳一とか、よかね」って言われて、僕が考えていることと同じだったんですよ。それで、「フェイスカビン」は耳なし芳一をモチーフにして、そばちょこを芳一の目・鼻・口・耳・手をモチーフにしました。僕もまだ完成品は見てないのですが、自由につくらせてもらうときには、「これ誰が買うんねん」ってくらいの、できるだけ安パイではないものを作りたいと思っているんです。波佐見を訪ねて驚いたことがもうひとつあって、あれだけ焼き物の産地として歴史があっても、焼いた後どうなるかわからないってことがまだまだあるんです。焼いてみたら「めっちゃきれいな模様出てるな」みたいな実験もさせてもらいましたけど、そういった予測不可能な誤差もふくめて、すごくおおらかなモノづくりの現場で、それって意外と稀有なことかもしれないなと感じました。

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「フェイスカビン」を指差す馬場さん。「フェイスカビン」とはマルヒロオリジナルの人型の花瓶。展覧会では、5人のアーティストが、この花瓶をベースに彫ったり削ったりと自由に表現した作品が見られる。

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三重野さん(左)は29歳。馬場さん(右)は32歳。「龍くんは3日間波佐見で作業してくれました。この人、気の合う人ばいねと思ったら、ケータイの電波も入らんような山小屋での作業も楽しんでくれたけん、そういう感じだっていうのはなんとなくわかってたけど、よかったね」と馬場さん。

大量生産される日用品の産地という先入観を思いっきりひっくり返すような、数々の”遊び”の感覚。その活動の幅広さ。今回の「ポップアップストア&展覧会イベント」を通して、マルヒロと馬場匡平さんのいいアニキぶりに触れてみてください。

MARUHIRO POP UP STORE & EXHIBITION in KYOTO
会期:2017年11月23日(木・祝)〜26日(日)12:00〜19:00(最終日は〜18:00)
会場:ASPHODEL(京都市東山区八坂新地末吉町99-10)
URL:www.hasamiyaki.jp

INTERVIEW

TEXT BY ATSUSHI TAKEUCHI

PHOTOGRAPHS BY KOJI HAYAKAWA

17.11.13 MON 16:03

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