TOP CRAFTS NOW INTERVIEW 上海にオープンした「京都ハウス」。
京都府副知事が語る、その可能性とは。

INTERVIEW

上海にオープンした「京都ハウス」。
京都府副知事が語る、その可能性とは。

中国・上海の富裕層が集う外灘(バンド)に2019年12月、京都の伝統工芸品を展示・販売する「京都ハウス」
がオープンした。現地のコングロマリットの要請と、京都府のバックアップによって実現したというこのアンテナショップについて、京都府副知事・山下晃正氏に聞いた。

 

きっかけは中国側の申し出から

2019年12月19日、中国・上海市外灘にある「THE BUND FINANCE CENTER(外灘金融中心/以下BFC)」の 1階に「京都ハウス」がオープンした。その広さは約250平米。 京都府指定の伝統的工芸品をはじめとして、漆器や陶器、和雑貨、清酒、コーヒーなどがスタイリッシュな空間に並ぶ。

「京都ハウス」は、京都府が全面的にバックアップしている。府が関わる海外の専門店としては最大ものだ。 2019年に中国から京都を訪れた人の宿泊数は約116万人。国別の宿泊者数としては第1位。2位のアメリカの約 48万人、3位の約46万人と比べても、桁違いだ。 ゆえに「京都ハウス」の出店は、この中国の人々の京都への関心をさらに引き出そうとする京都府からの発案かと思いきや、実は中国側の申し出がきっかけだという。

 

BFCのある外灘では、租界時代に建てられた西洋建築をリノベーションしたハイクラスなホテルやショッピングモールがどんどん生まれている。BFCはその外灘南側のランドマーク的存在。

BFCを運営するのは、中国の民営コングロマリットの最大手・フーシングループ(复星国際)。傘下に製薬や不動産、保険、鉄鋼などの幅広い事業会社を抱えるほか、世界を舞台に精力的に投資を進めている。 中国では知らない人がいないようなこの巨大企業が、2019年春、突然、京都府に「京都の工芸品を扱う店をBFC の目玉に据えたい」と話を持ちかけてきたというのだ。

「最初はびっくりしましたね」と話すのは京都府副知事の山下晃正氏。「ですが、これはビッグチャンスだと思いました。上海の一等地で、富裕層に向けて直接アピールができるのですから」。

 

こうして始まったプロジェクトは、フーシングループのペースで進んだ。「それはもう、すごいスピードですよ。 日本なら、コンセプトワーク、デザインコンペ…と手順を踏むところが、向こうは一気。夏に現地に下見へ行った 時には本当に間に合うのかと不安になるくらい何もありませんでしたが、冬には驚くほど立派なものが出来上がっていましたから。でも、このスピードについていけないと世界を舞台にしては戦えない、とも実感しました」。

2019年12月のオープニングの様子。

 

中国の富裕層から求められるもの

現在、「京都ハウス」に並んでいるのは、京焼・清水焼の蘇嶐窯(そりゅうがま)、洸春窯(こうしゅんがま)、京友禅の池内友禅、漆ガラスのMutsumi oitate、金彩工芸のtakenaka kinsai、テキスタイルのSOU・SOUなど、36ブランド約200点。それらすべて、フーシンサイドのセレクトだという。

 

アイテムの選定について感じることを山下副知事に尋ねると「意外なまでに、意外に思うセレクトがなかった」と 笑顔で返事が返ってきた。 「選定は先方にお任せしているのですが、我々がいいと思うものを選んでくださっていますね。ひと昔前の、いわゆる“中国趣味”といったものは一切感じられません」。 フーシングループの会長自身も、京都の工芸品に興味関心があり、その目は確かなものだと感じると言う。

売れ筋はハウスウエア関連や日本酒。仏具のおりんを身近なプロダクトにした南條工房の「LinNe」の売れ行きも好調だという。

オープン後すぐ、世界は新型コロナウイルスによる混乱に見舞われた。上海も同じく。ゆえに「京都ハウス」の本格的な稼働はこれからだが、すでに企業からノベルティグッズの注文があるなど幸先は良いと担当者は話す。

 

産業としてのクラフト界を底上げする

山下副知事は言う。「今回のフーシングループからの申し出だけでなく、世界各地から同じような話の打診はあります。つまり、京都のクラフトは世界に注目されていますし、実際に多くの人に求められているのです。問題は このビジネスチャンスを生かし切れていないということ。デザインのテイストや数量ロット、制作スピードをそれ ぞれのマーケットに合わせていけるかどうかは、ここ数十年にわたって抱えている課題であり、喫緊に解決すべき 課題だと私は考えています」。

 

確かに中国だけ見ても、近年、日本の伝統工芸品への注目度は高い。 「京都ハウス」がオープンする1カ月前、2019年11月には日本各地の伝統的工芸品を展示・販売する「伝統工芸 青山スクエア」が重慶にオープンしている。中国内で日本の伝統工芸品を扱った展示イベントも多数開催されてい るほか、海外(中国以外)の工芸品専門のECサイト「東家」では、3000を超える日本の工芸品が掲載されているという。

 

しかし、現状の京都のクラフト界を見ると、ひと握りの作家が個人的なつながりによって作品を世に出してはいるが、産業としては右肩下がり。しかも、その状況が長く続いている。作り手と使い手が点と点で結ばれている 状況で、面としての産業は小さくなっていると言わざるを得ない。

京都府では今、この「京都ハウス」への出品をきっかけにB to Bへ事業拡大を目指すべくマッチング事業を始めている。市場に求められているのは、まず提案力。商品が認められたら、次に求められているのは、スピードを 持って大量に生産するキャパシティだ。決して、価格を下げることではない。求められているものを、その場所に確実に届けることだ、と副知事は力強く言う。

 

すでに、「京都ハウス」への出品をきっかけに受注を受けた作家からは、「コロナ禍で落ち込んでいるなかでも、求めてくれる人がいることがわかった」との声もある。
それぞれの作家・ブランドが作る「点」が、たくさん連なることで「面」ができ、それが「産業」となる。「産業」としての基盤ができ、そこで切磋琢磨しあえば、基盤は必ず底上げされる。「面」を作るための構造改革に 京都府は危機感を持って取り組んでいるといえる。

副知事の言葉に印象的なものがあった。「いいお客さんを相手にものづくりをせんと、腕が落ちる。いいもんを作ってたら、おのずと腕は上がるんやで」。 職人の財産はその腕前だ。それを磨くためにも、外に目を向けること。「まずは東京へ」「次は日本中で」と 徐々に視野を広げるのではなく、欲しい人がいるところを見てみよう。世界は思うより狭いものかもしれない。

 

 

INTERVIEW

TEXT BY AKIKO KIYOTSUKA  EDIT BY ATSUSHI TAKEUCHI

PHOTOGRAPHS BY TAKAHIRO KOHIYAMA(Portrait Photo)

20.11.24 TUE 09:30

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